2012年5月4日金曜日

25年目のキス(1999年)

“ロンドンで一番”と言われたレシピで作成。しかし…。


 昨年からある女の子のblogをずっと読んでいて、今の就職活動のあまりの厳しさに涙しつつ、陰ながら応援していました。しかし無事に、今春から働いてらっしゃるみたい。自分も就職先が決まるのが遅かったので、他人事とは思えませんでした。本当におめでとうございます。感性豊かで真摯な女の子に、働く機会がちゃんと与えられる世の中であってほしいなあ。慣れるまでは大変だと思うけど、長くやっていれば必ずやりたいことや自分らしいことが少しずつできるようになるので頑張って! と、人を励ましている場合ではなく自分も頑張らねば。そんな新入社員がいっぱい誕生した春、ということでOLが主人公の映画、ドリュー・バリモア主演・製作総指揮、ラージャ・ゴスネル監督『25年目のキス』を見ました。今は「OL」じゃなくて「サラ女」と言うって本当?


 


 シカゴ・サン・タイムズ社で働くジョジー(ドリュー・バリモア)は文才はあるのに、真面目が過ぎて記事を書かせてもらえない二十五才のOLです。ある日突然、ワンマン社長(ゲイリー・マーシャル)の思いつきで、学生に扮して高校潜入ルポを書くことを命じられます。この企画が失敗すると自分のクビも危ない上司のガス(ジョン・C・ライリー)はジョジーに学園の王子様のガイ(ジェレミー・ジョーダン)や、美人のカースティン(ジェシカ・アルバ)と仲良くなるよう指示を出すのですが、ジョジーはついついさえない優等生のアルディス(リーリー・ソビエスキー)やコールソン先生(マイケル・ヴァルタン)と意気投合。人気者たちには相手にされません。そんな姉の苦労を見かね、弟のロブ(デヴィッド・アークエット)までもが学園に潜入してジョジーを人気者にすることに成功するのですが……というコメディ映画です。


 


 OL生活が長いのでOL映画を見るのは大好き。でもOL映画を撮るなら「ショートカットしない」ことを守ってほしい! 「美人」「肉体関係」などの理由で、面接とか試験とか業績とか然るべき段階をすっ飛ばして出世・転職・異動・昇格すると、OL仲間には確実に嫌われます。私が所属していた会社でも、そのようなケースがあったのですが、男性と同様に面接や試験を戦い抜いた女子社員たちから猛反対の嵐が巻き起こり、見送りとなりました。私はそのとき忙しかったので、すべてが終った後に顛末を教えてもらったのだけど、知っていたら一緒に反発しただろうなあ。ショートカットはする人もさせる人も「Kick your ass!」です。だからOL映画が、一番のお客様であるOL様の共感を得たいなら、「ショートカットしない」は鉄則。とことんショートカットでのしあがるOL映画は、『ショーガール』ぐらいえげつなくやってくれるならもちろん見たい!





 ほとんどのOL映画は「身の丈に合ってない状況に放り込まれる」発端に始まって、「つじつまが合うよう努力することで人間としても女としてもひと皮むける」という結末を迎えます。例えば、人気の映画『プラダを着た悪魔』では服の趣味が悪くてファッションをバカにしているアンドレアが「人気ファッション誌の編集長のアシスタントに採用される」という身の丈に合っていない状況に放り込まれます。そして、実はそこには「ファッションおたくな女の子はバカばっかりで使えなかったけど名門大学を卒業して大学新聞の編集長もやってたあんたなら使えるかと思って採用した」という理由があるので、OLも納得の大抜擢です。


 


 しかし同じアライン・ブロンシュ・マッケンナが脚本を書いた『恋とニュースのつくり方』では、なぜローカル局をクビになったベッキー(レイチェル・マクアダムス)が、視聴率最低番組とはいえネットワーク局のディレクターに大抜擢されたのかがわかりにくいので、どうも映画に乗り切れませんでした。つぶすことが密かに前提になっている不人気番組のディレクターだから、という理由だとはわかるのですが、ハッキリ描かれないまま話が進むので、尻がムズムズします。





 『お買い物中毒な私!』も、ファッション雑誌の編集部に採用されたくて送った文章が経済雑誌で採用されるなんて、「女の感性を生かす」という戯言=「ショートカット」としか思えませんでした。でも英語がわかる人は彼女の文才に納得できるのかもしれませんね。





 『ブリジット・ジョーンズの日記』という人気作もOLが主人公でしたが、あれは『高慢と偏見』を下敷きにしているので、OL映画というより恋愛の映画だと思っています。『ワーキング・ガール』はメラニー・グリフィスが素晴らしく可愛いのですが、ショートカットの嵐で、もう今のOLには受け入れられないはずです。そのようにOL映画はいっぱいあるけど、OLの共感をガッチリ得られて、時代を超えて長持ちする作品は実はとっても少ないのではないでしょうか。


  


 この『25年目のキス』では主人公が「二十五歳なのに高校生のふりをして潜入ルポを書く」という身の丈に合わない状況に放り込まれます。しかも主人公は、大人なのに今でもモテなかった高校時代の心の傷を引きずり、心は女子高生のまま時が止まっているのに女子高生のふりをしなくてはならない、という複雑な存在です。そんな矛盾に彼女を放り込むのは「すべて思いつきで好き勝手に決裁するワンマン社長」でした。そういう社長は現実世界にもいるので(私も会ったことある)、この大抜擢はおおいに納得できます。そしてジョジーを演じるドリュー・バリモアが、うら若き乙女とは思えないくらい(当時、二十四歳)、ましてや女優とは思えないくらい、大胆にモテない女の子に化けているので、映画の世界にすんなり入っていけました。


 


 この映画は、ムチャな嘘をつき通す楽しいコメディであるだけではありません。ジョジーは大人として学園に乗り込んで、上から目線で子どもを啓蒙するのではなく、子どもの世界を余所者の公平な目で見ることで、未熟な若者を励まし、自分自身も子どもっぽい価値観から二十五歳にしてやっと卒業する、という爽やかな映画でした。ドリュー・バリモアの実は古風な美貌と、優しい人たちを騙そうとして騙しきれないジョジーのキャラクターは、往年のハリウッド映画のヒロインたち、ビリー・ワイルダー監督『少佐と少女』のジンジャー・ロジャースや、フランク・キャプラ監督『オペラ・ハット』のジーン・アーサーや、プレストン・スタージェス監督『レディ・イヴ』のバーバラ・スタンウィックのような風格さえ感じられました。


 


 エンドクレジットの甘酸っぱい演出も(必見!)、この映画を締めくくるにふさわしい素晴らしさです。つくづく、日本にはプロムがなくて本当によかったと思います。ジョジーの気持ちがわかる女子は日本にもいっぱいいるのでは。高校時代、男子とほとんど口をきかなかった私も、そのひとりです。


 


 ジョジーの高校生活は学食とファストフードで彩られます。特に、ロブが学園で人気者になるために実行した、学食の食べ物を使ったある「秘策」には笑いました。あのシーン、大好き! パイやシェイク、デコレーションケーキ、アイスクリームなどチープな甘いものがいっぱい出てくる中、ジョジーとコールソン先生の距離を近づける大事な食べ物がブラウニーでした。学園のアイドルと仲良くなるために人気のクラブに行ったジョジーは、マリファナ入りのブラウニーを食べてしまい、ステージ上で痴態をさらします(このドリュー・バリモアも可愛い)。そんなジョジーを見ても、彼女にますます好感を持つコールソン先生! 怒られたり泥酔したり失敗したり、時には公衆の面前でブザマな姿をさらさなければならないOLにとって、度量の大きいコールソン先生は最高にいい男! 





 ジョジーが食べたブラウニーはねっとりしたチョコレートクリームが塗られていてデビルズフードケーキみたいだったけど、せっかくの機会なので、前々から気になっていたロンドンのチョコレートショップのポール.A.ヤングさんのレシピでブラウニーを作ってみました。日本国内で翻訳本が発売されていないので、以下に概要を掲載します。


●ポール・A・ヤングさんのブラウニー

【材料】
・無塩バター 100g
・ゴールデンカスターシュガー 250g
・ゴールデンシロップ 75g
・70%ダークチョコレート 275g
・放し飼いの鶏の中くらいの卵 4個
・中力粉 70g
・ココナッツフレーク 50g
・ドライチェリー 100g


【作り方】
・オーブンを160℃に余熱する
・大きなソースパンで、バター、砂糖、シロップが滑らかになるまで溶かす
・火を止めてチョコレートを加え、よく混ぜる
・卵を溶いてチョコレートの混合物と混ぜ合わせる
・小麦粉、ココナッツを加え、十分に混ぜる
・クッキングペーパーを敷いた15cm×20cm×2.5cmのトレイに注ぎ、平らにならす
・チェリーをブラウニーの表面に散らし、20分間焼く
・オーブンから出して冷まし、一晩冷蔵庫で冷やす
・型から出して、ペーパーを取り除き、濡れたナイフを使ってブラウニーの端を切り落とし、好きなサイズの四角形に切る
・食べるときは室温もしくは温める
・密閉容器に入れて冷蔵庫の中で4日間保存できる


ポール・A・ヤング著『adventures with chocolate』より






 料理研究家のデヴィッド・ルボヴィッツさんが、ポール・A・ヤングさんのブラウニーを「ロンドンで一番美味しい」と言っていたので気になっていたら、レシピ集が出版されていたので、その中の「黒サクランボとココナッツのブラウニー」を作りました(ドライクランベリーで代用)。しかし焼く温度が低いところに不安が…。これはねっとりタイプのガトーショコラのレシピに似ている? 過去、ねっとりタイプのガトーショコラを何度か作ったことがあるのですが、実は一度もうまく焼けたことがありません。不安を感じつつ、とりあえずレシピ通り一六〇度で二〇分焼いて取り出したら、生地がタプタプと型の中で波打って、どう考えても生焼け。それで再度、一七〇度に予熱したオーブンで一〇分焼いたら、表面が一センチくらい膨らんで裂け目ができていました。





 やっぱりこれくらい火を通さないとダメだろうと納得して粗熱を取り、一晩冷蔵庫で寝かしたのですが、翌日切ってみたら、まだネトネト過ぎて包丁でスムーズに切れません。ポールさんのオーブンではいいかもしれないけど、わが家のオーブンは、このレシピではダメみたい。次は生地を半分の量に減らして、一七〇度で二〇分~三〇分焼いて、中の方だけしっとりとなるようにしてみたいです。ガトーショコラ系は何が正解なのかがわからなくて難しい。でもそれって自分の中にイメージがないってこと? パンみたいな軽いパフパフのブラウニーじゃなくて、表面はカリッとして中がちょっとしっとりネットリどっしりしたブラウニーを作りたいのは確かなのだけど、果して、美味しいブラウニーとは!?


 


 

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