2009年12月24日木曜日

ジュリー&ジュリア(2009年)

ブフ・ア・ラ・ブルギニヨン。

 料理を作って写真を撮ってブログに映画日記をつけているなんて、いかにもライムスター宇多丸さん言うところの「BSOL(ブスで淋しいОL)」のやることですよね…。そんなBSOLとしては、「料理ブログを書いている女性が主人公の映画」と聞くとそりゃ映画館に見に行かざるをえません。というわけでノーラ・エフロン監督最新作『ジュリー&ジュリア』を見てきました。日本でも二〇〇九年の秋は料理ブログを書く女性の話題がホットでした。あの事件はどうなったのでしょうか。


 


 前作のノーラ・エフロン作品『奥さまは魔女』はさんざん叩かれましたが、ウィル・フェレルのあまりにひどすぎる役とか、有名俳優の省エネ演技のネタとか、『失われた地平線』やアクターズ・スタジオ・インタビューのパロディとか好きでした。ノーラ・エフロン作品は女の大好物「パーティ」と「意地悪」が詰まってるので嫌いになれないです。ちなみに『奥さまは魔女』に引き続き、今回も配給はソニーピクチャーズ。前作はニコール・キッドマン邸の家電がソニー製でしたが、今作はエイミー・アダムスのノートパソコンがVAIOでした。


 


 映画の主人公はもうすぐ三十歳のジュリー(エイミー・アダムス)。彼女は夫のエリック(クリス・メッシーナ)とクイーンズ地区のボロいピザ屋の二階に暮らし、政府機関のクレーム処理係として働いてます。ストレスだらけの中途半端な日々に変化を求めていたジュリーは、ジュリア・チャイルドが書いた料理書『Mastering the Art of French Cooking』の全五二四品を一年間ですべて作ってレポートするブログを始めることを決意します。そんなジュリーの一年間と、一九四九年にパリに引越して一九六一年に『Mastering the Art of French Cooking』を出版するまでのジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)の約十年間が平行して描かれる映画です。




 この映画は、過去のエフロン作品と大きく異なる点がひとつありました。それはコメディアン出身の俳優が重要な役を演じていないということです! そのためか、おなじみの電話ギャグやセックスギャグも薄め? 差別ギャグにいたっては皆無?という内容になってました。
 唯一ネタを披露するコメディアンは、ビデオ映像で出演するダン・エイクロイドです。彼がジュリア・チャイルドの料理番組「The French Chef」を茶化して、サタデーナイトライブで演じたコントをジュリーがテレビで見る場面がありました。この映画で一番笑ったのはここです。ついでに大好きだった「ごっつええ感じ」の四万十川料理学校のキャシィ塚本も思い出してしまいました。


 


 また、冒頭でジュリーが女友達とサラダランチをともにするシーンにも笑いました。これはもう「セックス・アンド・ザ・シティ」に対する皮肉ではないでしょうか。ニューヨーク生まれビバリーヒルズ育ちのノーラ・エフロンは、「SATC」を見て「田舎者がバッカじゃねーの」とか思うんですかね!?


 


 映画には美味しそうな料理がもちろんたくさん出てきます。パンフレットにもル・コルドンブルーが紹介するブフ・ア・ラ・ブルギニヨン(牛肉の赤ワイン煮込み)、ノルマンディー風鶏のロースト、オマール・テルミドールのレシピが掲載されていました。中でも目立っていたブフ・ア・ラ・ブルギニヨンが気になり、ジュリア・チャイルド著『Mastering the Art of French Cooking』のオリジナル本も確認してみました。和訳本は発売されていないようなので参考用に一番下に大まかに紹介しておきます。ブフ・ア・ラ・ブルギニヨンはフランスの定番料理だけあって面白いエピソードがいろいろあるのですが、長くなるのでまた別の機会に。


 


 「人と人を結びつける食って素晴らしいよね」とか「ささやかな日々の幸せを肯定していこうよ」みたいな話になったら息苦しいわ~と思い、ノーラ・エフロンはどうやってこの映画を終わらせるのだろうとハラハラして見ていたら、「私自身は、なぜか料理がとてもクリエイティブだとは考えてない」とビシッと書いていたノーラ・エフロンだけあって、そんな安直な内容ではありませんでした。映画は原作通り、九十歳になったジュリアの冷たい言葉がジュリーへ伝えられて結末に向かいます。そのジュリアの言葉によって、料理で逃避していたジュリーは自分が自分の言葉で語り始めていることを自覚し、ジュリアのフォロワーから卒業するところが素晴らしかったです。一冊の本で始まった映画にふさわしく、一冊の本で終わる結末はとても素敵です。




 ノーラ・エフロン作品は音楽の選び方もいつも楽しいですが、この映画ではドリス・デイの「A bushel and a peck」という曲がとても可愛くて印象的でした。この明るい曲が、多幸感いっぱいの映画や音楽が量産される一方で赤狩りや冷戦が暗い影を落とした時代、一九五〇年にリリースされたのかと思うと不気味にも耳に響きます。ノーラ・エフロンの両親も一九五〇年代のハリウッドで活躍した脚本家、かつ特に赤狩りの標的にされたユダヤ人です。ちょっと調べただけでは、ヘンリー・エフロンとフィービー・エフロン夫妻と赤狩りの関わりについて具体的に書かれてある文章を見つけることはできませんでしたが、引き続き調べてみたいなあと思っています。


 


 


★『Mastering the Art of French Cooking』のブフ・ア・ラ・ブルギニヨン

【材料】
(1tbs=14.78ml 1ts=4.92ml)
・ベーコンの塊 170g
・オリーブオイルもしくは調理オイル 1tbs
・約5cmのサイコロ状に切った赤身のシチュー用の牛肉 1360g
・スライスした人参 1本
・スライスしたタマネギ 1個
・塩 1ts
・コショウ 1/4ts
・小麦粉 2tbs
・フルボディの若い赤ワインもしくはキャンティ 3カップ
・ビーフストックかビーフブイヨン 2~3カップ
・トマトペースト 1tbs
・クローブ 2個
・つぶしたニンニク
・タイム 1/2ts
・くだいたローリエ
・ゆがいたベーコンの皮
・小さな白いタマネギ 18~24個
・新鮮なマッシュルーム 450g

【作り方】
・ベーコンの皮を取って立方体(約6mmの厚さで約3.8cmの長さの棒状)
・切ったベーコンと皮1.5Lの水で10分間煮て、煮汁を捨てて乾かす
・オーブンを230℃に余熱しておく
・わずかに茶色になるまでベーコンを油で約2、3分炒める
・油が煙を出すまでキャセロールを温める
・牛肉を全面よく焼けるまで炒めてペーパータオルで水分を取る
・牛肉がまだ湿っぽい場合は再度しっかり焼く
・肉を炒めた油でスライスした人参、タマネギを炒め、油を捨てる
・牛肉とベーコンをキャセロールに戻して塩コショウで味付けする
・小麦粉をふりかけて牛肉を覆うようにかき混ぜる
・キャセロールのフタをしないで、余熱したオーブンで4分間焼く
・肉をかき混ぜて再度オーブンで4分間焼き、牛肉を軽い衣で覆われた状態にする
・キャセロールを出して、オーブンを160℃で余熱する
・牛肉がひたひたになるまでワインと、ストックもしくはブイヨンをかき混ぜながら入れる
・トマトペースト、ニンニク、ハーブ類、ベーコンの皮を入れて沸騰させる
・キャセロールのフタをして160℃に余熱しておいたオーブンで2.5~3時間焼く
・肉を焼いている間、小タマネギとマッシュルームを用意する
・バターと油を熱したフライパンに小タマネギを入れ、茶色になるまで中火で約10分間焼く
・スープストックかビーフブイヨン、辛口の白ワインか赤ワインを注ぎ、塩コショウ、ブーケガルニを入れて、小タマネギがやわらかくなるまで40~50分間煮る
・バターと油を熱したフライパンにマッシュルームを入れる
・フライパンを揺らしながら4~5分間炒める
・炒めている間、マッシュルームが油を吸収し、さらに2~3分間経つと表面に再び油が現れ、茶色になりはじめる
・マッシュルームがちょっと茶色くなったら、火から下ろす
・みじん切りのエシャロットとマッシュルームを混ぜ合わせ、2分間さらに中火で炒める
・牛肉にフォークが簡単に突き刺されるようになればオーブンから出す
・牛肉が焼けたらキャセロールの中身を漉して汁だけをソースパンに移す
・キャセロールを洗い、牛肉とベーコンを戻す
・用意しておいた小タマネギとマッシュルームを牛肉の上に散らす
・ソースから脂をすくって捨てる
・ソースを1~2分間煮て浮んだ脂をすくって捨て、約2.5カップになるまで煮詰める
・濃過ぎる場合は2~3tbsのストックかブイヨンを混ぜる
・ソースを肉と野菜にかけまわして盛り付ける
・パセリのみじん切りをふりかける

2009年6月7日日曜日

ショーガール(1995年)

自分ではもう買わないぞ! クリスタル。 


 ロシア語を学んでいる友人の誕生日に悪ノリし、お祝いのために、アレクサンドル2世が作らせたというクリスタルを買いました。確かに美味しかったのですが、私ごときがシャンパンを飲んでも、そりゃ何だって美味しく嬉しいので、こんな贅沢品もう二度と自分では買わないでしょう。
 ルイ・ロデレール社のシャンパン、クリスタルが出てくる映画については、複数ある映画とワインについての本の中でも『映画の中のワインで乾杯!』(東急エージェンシー出版部)が最もマニアックに、たくさん紹介しています。しかし見事に『ワーキングガール』『アイラブトラブル』『ファーストワイフクラブ』『フォールームス』など、ろくでもない映画の成金アイテムとして登場してばかり…。そんなバブリーな存在の悲しさも気になって一度飲んでみたかったのでした。





 クリスタルを作らせたのがロシア皇帝のアレクサンドル2世という話は面白いのですが、なんだか出典も詳細もよくわかりません。暗殺防止のために瓶を透明にしたとか底を平らにさせたとか伝える人もいれば、他のシャンパンと区別できるように瓶を透明にさせたという話もあり……。『死ぬまでに飲みたい30本のシャンパン』(講談社)によればルイ・ロデレール本社のホールにアレクサンドル2世の銅像が飾ってあるのは確かみたいです。





 エドワード・ラジンスキーの『アレクサンドル2世暗殺』(日本放送出版協会)を読んでも、クリスタルの話は出てきやしませんでした。でも「そりゃ瓶も透明に底も平らにしたくなるわ」という時代背景はよくわかります。


 


 クリスタルが登場する映画のひとつ、ポール・バーホーベン監督『ショーガール』もろくでもない一本なのですが、女の子の根性と友情の描きぶりが少女漫画のようで何度見ても燃えます。立派なダンサーになりたいストリッパーのノエミ(エリザベス・バークレー)と、ラスベガスのヌードショーのトップダンサーのクリスタル(ジーナ・ガーション)が、トップの座を争って熾烈な戦いを繰り広げるという話で、下品でばかばかしくてどうしようもないのに、まったく憎めない楽しい映画です。


 


 ジーナ・ガーションとエリザベス・バークレーがクリスタルを飲むのは、ラスベガスのスパーゴという店です。背景が書割みたいで変だなあと気になったので調べてみたところ、スパーゴはショッピングモール内にある店だそうで、青空は本当に書割(モールの壁)でした。スパーゴはアカデミー賞公式シェフのウォルフギャング・パックが経営する有名店だそうです。




 そのスパーゴで、体型に気を配らなければならないヌードダンサーの女子二人が「玄米と野菜の食事なんて犬のエサ以下」と火花を散らしつつ意気投合するところが痛快です。さらに二人は過去の貧乏生活時代に犬のエサを食べたこと、中でもドギーチャウが好きだったことを告白し、ますます意気投合した後に、ゴージャスなクリスタルを飲むのです。犬のエサからクリスタルへなだれ込むハデさ・下品さがたまりません。まさに姫川亜弓の前で北島マヤが泥まんじゅうを食べる場面のようなケレン味!?(ちょっと違う?)