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2013年1月15日火曜日

ルビー・スパークス(2012年)

1874年のオハイオ州のレシピで作ったミートローフ。

 『宇宙人ポール』の半券を使って『ルビー・スパークス』を千円で見ました。

 監督は『リトル・ミス・サンシャイン』を撮った、ジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリス夫婦です。実は『リトル・ミス・サンシャイン』はちょっと苦手な映画でしたが、話題の新作恋愛映画はやっぱり見ておきたい! そして主演の女の子が自ら脚本を書いているのが気になる! ので映画館に行ってきました。二〇十三年“映画館初め”は渋谷のシネクイント、この『ルビー・スパークス』です。


 


 十九歳で小説家デビューして天才と言われたものの、新作が書けず、新しい恋人もできないまま、スランプに陥っているカルヴィン(ポール・ダノ)が主人公です。ある日、彼は夢の中で、理想の女の子、ルビー・スパークス(ゾーイ・カザン)と出会います。彼女のことを小説に書いてみたところ、現実の世界にルビーが現れ、自分の恋人になってくれて……というラブコメです。


 『(500)日のサマー』のズーイー・デシャネルと同じように、『ルビー・スパークス』主演のゾーイ・カザンも超美人というわけではないのに可愛い! ルビーのカラフルなファッション、インテリアもデザインもおしゃれなカルヴィンの家、二人の恋愛生活を彩る音楽も素敵です。そして、この映画も『(500)日のサマー』も、それ以上でもそれ以下でもないところが、いいところでもあり、物足りないところでもあるような気がします。


 


 そんな可愛いゾーイ・カザンは、『エデンの東』『ブルックリン横丁』『紳士協定』などで有名なエリア・カザンの孫で、顔がそっくりでびっくりします。


 


 しかも父のニコラス・カザンは『マチルダ』『アンドリューNDR114』などの脚本家、母のロビン・スウィコードは『ジェイン・オースティンの読書会』の監督かつ『若草物語(一九九四年版)』『SAYURI』などの脚本家という、業界人一家育ち。かといってゾーイ・カザンは単なる二世・三世タレントではなく、イェール大学を卒業した才媛で、サム・メンデス監督『レボリューショナリー・ロード』ではレオナルド・ディカプリオの不倫相手という端役でヌードも披露しています。


 


 ルビーはカルヴィンが作った女の子キャラなので、もちろん料理も上手です。登場して間もなく、大きなボールを抱えて卵を溶いていたので、笑いました。

 台所まわりの美術もいちいち可愛かったです。ルビーのエプロンは、彼女のテーマカラーというべき赤色。ちょっと紫がかったような濃く鮮やかな深い赤で、とても印象に残ります。また、ルビーが現れた翌朝、彼女がシリアルを食べているボウルの色も紫がかった赤、「ルビー色」で可愛いです。


 


 カルヴィンの兄のハリー(クリス・メッシーナ)が遊びに来たときも、ルビーはミートローフをふるまいます。映画ではすぐに食後シーンに切り替わってしまうので、ルビーがどんなミートローフを作ったのかは不明ですが、テーブルの上に、ル・クルーゼのチェリーレッドのココット・オーバルみたいな赤い鍋がドン!と置いてありました。そこで私も「ルビーの出身地であるオハイオ州の家庭に伝わっているレシピ」というイメージで古い料理書を調べ、ル・クルーゼの鍋を使ってミートローフを焼いてみました。


 


 見てみたのはコネチカット州とオハイオ州のメソジスト監督教会の料理書『METHODIST COOK BOOK』(一九〇七年刊行)と、オハイオ州ポーツマスの軍人共済組合の料理書『Portsmouth monumental cook book』(一八七四年)です。前者には四つの、後者には二つのミートローフのレシピが掲載されていました。



 


 「VEAL LOAF」と肉の種類を仔牛と明記している場合は、約三ポンドの仔牛肉と二分の一ポンドの塩豚と、卵、砕いたクラッカー、こしょう、塩がだいたい共通の材料。レシピを紹介している女性によって、そこにセージを入れたり、バター、クリーム、牛乳、タイムを入れたりという感じです。現在よく見かけるようにゆで卵を入れたり野菜を刻んで入れたりはしない、シンプルな料理です。

 わが家ではいちばんシンプルな下記のレシピで、量を三分の一に減らして作ってみました。

★オハイオ州ポーツマスのヒコック夫人のミートローフ

生の赤身の仔牛肉を3ポンド、1/2ポンドの塩豚(近所になかったのでベーコンで代用)を、加熱しないまま、よく挽く。6個のボストンクラッカーの砕いたもの、よく溶いた3個の卵、ティースプーン山盛りのコショウ、ティースプーン1杯のタイムを混ぜて、皿にしっかりと詰める。3時間焼く。冷ましたものをスライスしてお茶と一緒にいただくと美味しい。
『Portsmouth monumental cook book』より



 わが家のル・クルーゼはココット・ロンドです。そこに牛肉を約五〇〇gに減らしたレシピで作った素材を、かまぼこ状にして置きました。どうなるのかわからなかったので一応クッキングシートを敷きました。
 フタをしないで二〇〇℃でまずは三十分。オーブンから取り出すと、上はいい焼き色で側面がほんのりピンク色。肉の脂とアクが底に溜まっていたので、ここでクッキングシートごと捨てました。フライパンで焼き色を付けてアクと脂を出してからオーブンで焼いてもよかったかもしれません。ついでにさっと茹でた野菜を周囲に散らして、二〇〇℃で十分、追加で焼きました。

 これでしばらく粗熱をとって、スライスして、ソース(ケチャップ+ウスターソース+赤ワインなど好みで)をかけて食べます。わが家では最近流行中の「なんでもパクチーと一緒に食べる」をこのミートローフでも試したら、ものすごく美味しかったです!!


ミートローフをパクチーと一緒に食べるのが流行中。

2013年1月5日土曜日

ミッドナイト・イン・パリ(2011年)

夏にはまったカルヴァドス・ジンジャー。


 あけましておめでとうございます。
 真冬に夏の話で恐縮ですが、昨年の夏はカルヴァドス・ジンジャーにはまってました。

 マルセル・カルネ監督『港のマリー』、タル・ベーラ監督『倫敦から来た男』、アキ・カウリスマキ監督『ル・アーヴルの靴みがき』、そして、ウディ・アレン監督『ミッドナイト・イン・パリ』を見たら、どの映画にもカルヴァドスが出てきて、飲んでみたくてたまらくなってしまったのがきっかけです。

 ちなみに、この冬は何にはまっているかと言うと、「日本酒はどんな酒であれ、燗して飲むのが一番美味しいよ!」とふれまわるのに凝ってます。


 


 ウディ・アレンの新作を楽しみにして、映画館へ行くのは久しぶりでした。
 学生時代の私は、ケラのラジオ番組を愛聴しており、彼が紹介するものは何でも見たり聞いたり読んだりしていたのですが、テクノポップ、ニューウェーブ、マルクス・ブラザーズ、バスター・キートン、モンティ・パイソン、Mr.Boo、小林信彦…、そしてウディ・アレンもそのひとつでした。

 しかし最近は「忙しいなかウディ・アレンの新作を見に行くぞ!」という気合いを失っていました。

 それがこの『ミッドナイト・イン・パリ』で久々に重い腰を上げた理由は、なんといっても主演がオーウェン・ウィルソンだからです! 『ライフ・アクアティック』を見て以来、オーウェン・ウィルソンがこの世に元気に生きている、と思うだけで、泣けてきます。

 そんなオーウェン・ウィルソンが、ウディ・アレン作品に出る。
 それは見に行かねばなりません。


 


 主人公は、ハリウッドで脚本家として活躍中のギル(オーウェン・ウィルソン)です。

 ギルとそのフィアンセのイネズ(レイチェル・マクアダムス)は、イネズの父(カート・フラー)の出張に便乗してパリ旅行中。イネズ一家は保守的な金持ちで、パリに移住して小説を書きたいと思っているギルと、何かと意見が合いません。

 ウンザリしたギルが真夜中のパリを散歩していると、自動車が一台やってきて、彼を誘います。自動車に乗り込んだギルが連れて行かれた先は、ヘミングウェイやフィッツジェラルド夫妻、コール・ポーター、ピカソが生きている一九二〇年代のパリで……というコメディです。


 


 ヘミングウェイ、スコット・フィッツジェラルド、コール・ポーター、ガートルード・スタイン、アリス・B・トクラス、ダリ、ピカソ、ゴーギャン、ルイス・ブニュエル、マン・レイなどなど有名人がいっぱい出て来て楽しいのですが、見てみれば『カイロの紫のバラ』のような、いつものウディ・アレンの“あちらとこちら”の話でした。

 映画が、橋に始まり、橋に終わるのも暗示的です。

 オーウェン・ウィルソンがちょっと老けてくたびれていて、同じウディ・アレン監督作の『ギター弾きの恋』のショーン・ペンや『マッチポイント』のジョナサン・リース=マイヤーズより魅力に欠けるように感じられましたが、最後の橋のシーンは何度見ても好き。
 あのシーンは、観客みんながギルと同じ気持ちになって、胸がいっぱいになるんじゃないかと思います。


 


 小説を書きたいギルと金持ちのワガママ娘のイネズというカップルが主人公であること、ウディ・アレン作品を貫くテーマを考えても、スコット・フィッツジェラルドと深く絡む話だったら二重三重に面白すぎる! とわくわく期待しましたが、ウディ・アレンはヘミングウェイの方が好きみたいです。

 OLとしては、イネズの旅行鞄セットがゴヤールで揃ってるところに目が釘付けでした。『シャレード』のオードリー・ヘップバーンの旅行鞄や、大地真央と松平健の新婚旅行の旅行鞄がルイ・ヴィトンで揃っていたのは見ましたが、ゴヤールで揃えているのを見るのは初めてです。


 


 現代のパリに生きるギルは、イネズ一家やイネズの元カレの大学教授と一緒に、リッチな建物の屋上で開催される品評会に参加して、チャラチャラと赤ワインを飲みます。しかし一九二〇年代のパリで、ギルが自らショットグラスに注ぎ、そのままガブッと飲んでいたのは、カルヴァドスでした。

 しかしどの酒屋に行っても、映画の中のカルヴァドスのように、黒蜜のようなカラメルのような、人を誘うような濃い色をしたものは見つけられません。そこでまずはなじみのバアへ行って、ギルやノルマンディの漁師やル・アーヴルの刑事みたいに、常温でそのまま飲んでみました。


 


 気持ちだけは、ショットグラスをカウンターにガン!と叩きつけて、「カルヴァ!」と威勢よくおかわりを求めたかったのですが、一杯を飲みきるのが大変なくらいカルヴァドスは強い酒でした。

 酒にとても詳しくて、いつも美味しいシングルモルトや飲み方を教えてくれる女の子の店員さんに相談してみたら、「カルヴァドスをジンジャーエールで割るカルヴァドス・ジンジャーが美味しいですよ」とのこと。確かに林檎と生姜の香りがよくて感激してしまい、今年の夏は家でもよく飲みました。ジンジャーエールは安いものでなく、生姜の味がしっかりしてる手作り風のものを使った方が美味しいです。


 

2012年12月4日火曜日

恋は邪魔者(2003年)

生チョコレートの正体は?


 八月、山崎まどか先生の『女子とニューヨーク』(メディア総合研究所)を買って、その日のうちにいっきに読んでしまいました。

 大人気テレビドラマシリーズ「Sex and the City」の何がそんなに面白いのか? いままで誰が言っていることにも納得したことがありませんでしたが、この本で初めてそれをピタリと言い当てている文章を読んだ気がします。本当にすっきりしました。


 


 しかも最初は川本三郎の映画の本のように連想ゲームのごとくニューヨークを舞台にした女性映画の歴史や薀蓄を楽しむ本なのかな? と読み進んでいたら、「Sex and the City」の核心に触れる第四章で、思わず涙してしまいました。行ったこともない他人様の国の町の話で涙が出るなんて、その理由は単純です。東日本大震災を経験したために、よく知っている風景が破壊されてしまったニューヨーク市民にシンパシーを感じられるようになってしまったせいと、9.11以降のニューヨークのように、日本でも過去に味わったことのない不況の風を感じているせいだと思われます。もちろんテロと天災がまったく違うのはわかっているのですが…。

 せっかく楽しく読書したので、『女子とニューヨーク』の第一章で紹介されていたニューヨークを舞台にした映画、ペイトン・リード監督、レネー・ゼルウィガーとユアン・マクレガーが主演の『恋は邪魔者』を見ました。


 


 映画の舞台は一九六二年のニューヨーク。恋は女の人生にとって邪魔でしかないことを説く啓発本『恋は邪魔者(Down with Love)』の著者、バーバラ・ノヴァク(レネー・ゼルウィガー)がミルウォーキーからニューヨークの出版社にやってきます。編集者のヴィッキー(サラ・ポールソン)は彼女を売り出すために、プレイボーイで有名な人気ジャーナリストのキャッチャー・ブロック(ユアン・マクレガー)にノヴァクの記事を書かせることを計画しますが、キャッチャーはデートに忙しく取材の約束を反故にします。ところがその直後、『恋は邪魔者』は大ベストセラーに。スターとなったノヴァクがキャッチャーの悪口をテレビで言い触らすという反撃が始まりました。キャッチャーは宇宙飛行士のふりをして面識のないノヴァクに近付いて誘惑し、彼女の自説を覆させようと画策するのですが…というコメディです。





 この映画は、モダンなファッションやインテリア、シャーベットのようなカラフルな色使いで一九六〇年代風に映像を彩りつつ、ハッピーエンドに二十一世紀的な解釈を大胆に取り入れているところが面白いです。明るく楽しいセックス・コメディと思いきや、ハリウッドの女性映画の文脈に置いて見てみると、実はとても批評性の高い知的な作品なのでした。トッド・ヘインズ監督『エデンより彼方に』や、最近だとテイト・テイラー監督『ヘルプ』など、いかにも映画好きな頭のいい監督が撮った女性映画批評のようなアメリカ映画にちょっと疲れた気分もあるのですが、山崎まどか先生の『女子とニューヨーク』を読んで『恋は邪魔者』がどんな過去作にオマージュを捧げつつ二〇〇三年に撮られたのかを知る楽しみはまた別です。ぜひ読んでみてください!


 


 恋の代わりにバーバラ・ノヴァクが女性に勧めるのが「チョコレート」です。
 「恋をしそうになったらチョコレートを食べて我慢しろ!」と。

 そのため映画にはコンポート皿に積み上げられたキューブ型チョコレート、大きなココットで焼かれるチョコレートスフレ、「Down with Love(恋は邪魔者)」とパッケージに印刷されたオリジナル板チョコなどチョコレートがいっぱい出てきて楽しいです。

 なんで恋の代わりがチョコレートなんでしょうか?
 トラベルライターのタラス・グレスゴーさんの著書『悪魔のピクニック 世界中の禁断の果実を食べ歩く』(早川書房)によると、大量生産品でない高級なチョコレートには気分を高揚させ集中力を増進させるメチルキサンチン、テオブロミン、カフェイン、トリプトファンといった一二〇〇種類の科学物質が含まれているとのこと。一八二五年に書かれたブリア=サヴァラン著『美味礼賛』にもチョコレートは「精神を緊張させる仕事、聖職者や弁護士の仕事に従事する者には最も適したものであり、特に旅行者にはよろしい」とあります。覚醒する食べ物=恋にうっとりしない、というイメージにつながるのでしょうか。





 しかし、なぜだかチョコレートはセクシャルな話とセットになることも多いように感じます。一七七八年にサド侯爵が投獄された原因は「チョコレート・トローチに催淫剤スパニッシュフライを混ぜて乱交パーティに使おうとした罪」だったし、ブリア=サヴァランも『美味礼賛』の中で「悲しい人々のためのチョコレート」と名づけて竜涎香入りチョコレートを披露していますが、竜涎香もやっぱり異性を誘惑する効果のある香りとして知られています。そしてチョコレートが印象的に登場する映画と言うと、実は、ある映画監督の作品群を思い出すのですが、その監督は作品についても私生活についても、そのセクシュアリティがとても興味深い人物…。その話は長くなるので、また別の機会に! 


 


 チョコレートのことを考えていたら、当然チョコレートが食べたくなったので、『恋は邪魔者』にも出てきたキューブ型のチョコレートを作ってみました。

 バーバラ・ノヴァクがつまんでいたチョコレートがどんなものなのかよくわからないのですが、日本でキューブ型チョコレートと言えば、やっぱり「生チョコ」です。そして、ずっと気になっているのが「生チョコ」ってなんなの!? その正体がもうひとつよくわからないということです。例えば「パヴェ・オ・ショコラ(チョコレートの石畳)」という名前で、生チョコっぽい菓子が売られていたりレシピが紹介されていたりして、フランスにもともとそういう菓子があって、それが日本に伝わってわかりやすく「生チョコ」になったのかな? と思って調べてみたら、ラルース料理事典に載っていた「パヴェ・オ・ショコラ」は生チョコとはまったく別物。スポンジにチョコレートのバタークリームをはさんで積み重ねて、チョコレートのフォンダンを周りに塗るという菓子でした。





 生チョコってなに?

 と、わかってなかったのは私だけかもしれませんが、ボンボン・ショコラやチョコレート・トリュフやの中に入れる「ガナッシュ」が正体のようです。トリュフのように丸めたり、ボンボンのように衣をかける手間をはぶいて、四角く切ってココアパウダーをまぶしたのが生チョコ。“美味しい手抜きレシピ” ガナッシュのいいところは、口解けが滑らか、かつ、酒やスパイスを入れて、風味をいろいろ楽しめるところです。そして生チョコのレシピは他のチョコレート菓子に比べるとあっけないくらい簡単なので、自作してわがままに楽しまなきゃ損! という気がしてきます。私は酒が好きなので、ラム酒で以下のように作ってみました。ちなみにちょうど家にタカナシの生クリームが1パック余っていたので下記の分量で作りましたが、かなり大量で、食べるのが辛かったです。

★生チョコ

【材料】
・ダークチョコレート 300g
・生クリーム(乳脂肪分35%) 200cc
・水飴 大さじ1
・ラム酒 大さじ2

【作り方】
・チョコレートを細かく刻む
・鍋に生クリームと水飴を入れて沸騰させて1分間煮立たせる
・火を止めて鍋を1分間放置する
・刻んだチョコレートを鍋に入れてスパチュラでかき混ぜて溶かす
・四角い型に流し入れて冷蔵庫で1時間以上冷やして固める
・素材が固まったら型から外し、温めた庖丁で好みの大きさに切って、ココアパウダーをまぶす


 しかし「Sex and the City」も結局、ニューヨークという町、アメリカという国についての話か。アメリカ人ってそういうの好きね、と思った後に、ロベール・ブレッソンの『白夜』をユーロスペースで見たら、「Sex and the City」ってニューヨーク版『白夜』という趣もちょっとあるんじゃないかなあ、とふと思いました。


 


 


 


 


 

2012年5月4日金曜日

25年目のキス(1999年)

“ロンドンで一番”と言われたレシピで作成。しかし…。


 昨年からある女の子のblogをずっと読んでいて、今の就職活動のあまりの厳しさに涙しつつ、陰ながら応援していました。しかし無事に、今春から働いてらっしゃるみたい。自分も就職先が決まるのが遅かったので、他人事とは思えませんでした。本当におめでとうございます。感性豊かで真摯な女の子に、働く機会がちゃんと与えられる世の中であってほしいなあ。慣れるまでは大変だと思うけど、長くやっていれば必ずやりたいことや自分らしいことが少しずつできるようになるので頑張って! と、人を励ましている場合ではなく自分も頑張らねば。そんな新入社員がいっぱい誕生した春、ということでOLが主人公の映画、ドリュー・バリモア主演・製作総指揮、ラージャ・ゴスネル監督『25年目のキス』を見ました。今は「OL」じゃなくて「サラ女」と言うって本当?


 


 シカゴ・サン・タイムズ社で働くジョジー(ドリュー・バリモア)は文才はあるのに、真面目が過ぎて記事を書かせてもらえない二十五才のOLです。ある日突然、ワンマン社長(ゲイリー・マーシャル)の思いつきで、学生に扮して高校潜入ルポを書くことを命じられます。この企画が失敗すると自分のクビも危ない上司のガス(ジョン・C・ライリー)はジョジーに学園の王子様のガイ(ジェレミー・ジョーダン)や、美人のカースティン(ジェシカ・アルバ)と仲良くなるよう指示を出すのですが、ジョジーはついついさえない優等生のアルディス(リーリー・ソビエスキー)やコールソン先生(マイケル・ヴァルタン)と意気投合。人気者たちには相手にされません。そんな姉の苦労を見かね、弟のロブ(デヴィッド・アークエット)までもが学園に潜入してジョジーを人気者にすることに成功するのですが……というコメディ映画です。


 


 OL生活が長いのでOL映画を見るのは大好き。でもOL映画を撮るなら「ショートカットしない」ことを守ってほしい! 「美人」「肉体関係」などの理由で、面接とか試験とか業績とか然るべき段階をすっ飛ばして出世・転職・異動・昇格すると、OL仲間には確実に嫌われます。私が所属していた会社でも、そのようなケースがあったのですが、男性と同様に面接や試験を戦い抜いた女子社員たちから猛反対の嵐が巻き起こり、見送りとなりました。私はそのとき忙しかったので、すべてが終った後に顛末を教えてもらったのだけど、知っていたら一緒に反発しただろうなあ。ショートカットはする人もさせる人も「Kick your ass!」です。だからOL映画が、一番のお客様であるOL様の共感を得たいなら、「ショートカットしない」は鉄則。とことんショートカットでのしあがるOL映画は、『ショーガール』ぐらいえげつなくやってくれるならもちろん見たい!





 ほとんどのOL映画は「身の丈に合ってない状況に放り込まれる」発端に始まって、「つじつまが合うよう努力することで人間としても女としてもひと皮むける」という結末を迎えます。例えば、人気の映画『プラダを着た悪魔』では服の趣味が悪くてファッションをバカにしているアンドレアが「人気ファッション誌の編集長のアシスタントに採用される」という身の丈に合っていない状況に放り込まれます。そして、実はそこには「ファッションおたくな女の子はバカばっかりで使えなかったけど名門大学を卒業して大学新聞の編集長もやってたあんたなら使えるかと思って採用した」という理由があるので、OLも納得の大抜擢です。


 


 しかし同じアライン・ブロンシュ・マッケンナが脚本を書いた『恋とニュースのつくり方』では、なぜローカル局をクビになったベッキー(レイチェル・マクアダムス)が、視聴率最低番組とはいえネットワーク局のディレクターに大抜擢されたのかがわかりにくいので、どうも映画に乗り切れませんでした。つぶすことが密かに前提になっている不人気番組のディレクターだから、という理由だとはわかるのですが、ハッキリ描かれないまま話が進むので、尻がムズムズします。





 『お買い物中毒な私!』も、ファッション雑誌の編集部に採用されたくて送った文章が経済雑誌で採用されるなんて、「女の感性を生かす」という戯言=「ショートカット」としか思えませんでした。でも英語がわかる人は彼女の文才に納得できるのかもしれませんね。





 『ブリジット・ジョーンズの日記』という人気作もOLが主人公でしたが、あれは『高慢と偏見』を下敷きにしているので、OL映画というより恋愛の映画だと思っています。『ワーキング・ガール』はメラニー・グリフィスが素晴らしく可愛いのですが、ショートカットの嵐で、もう今のOLには受け入れられないはずです。そのようにOL映画はいっぱいあるけど、OLの共感をガッチリ得られて、時代を超えて長持ちする作品は実はとっても少ないのではないでしょうか。


  


 この『25年目のキス』では主人公が「二十五歳なのに高校生のふりをして潜入ルポを書く」という身の丈に合わない状況に放り込まれます。しかも主人公は、大人なのに今でもモテなかった高校時代の心の傷を引きずり、心は女子高生のまま時が止まっているのに女子高生のふりをしなくてはならない、という複雑な存在です。そんな矛盾に彼女を放り込むのは「すべて思いつきで好き勝手に決裁するワンマン社長」でした。そういう社長は現実世界にもいるので(私も会ったことある)、この大抜擢はおおいに納得できます。そしてジョジーを演じるドリュー・バリモアが、うら若き乙女とは思えないくらい(当時、二十四歳)、ましてや女優とは思えないくらい、大胆にモテない女の子に化けているので、映画の世界にすんなり入っていけました。


 


 この映画は、ムチャな嘘をつき通す楽しいコメディであるだけではありません。ジョジーは大人として学園に乗り込んで、上から目線で子どもを啓蒙するのではなく、子どもの世界を余所者の公平な目で見ることで、未熟な若者を励まし、自分自身も子どもっぽい価値観から二十五歳にしてやっと卒業する、という爽やかな映画でした。ドリュー・バリモアの実は古風な美貌と、優しい人たちを騙そうとして騙しきれないジョジーのキャラクターは、往年のハリウッド映画のヒロインたち、ビリー・ワイルダー監督『少佐と少女』のジンジャー・ロジャースや、フランク・キャプラ監督『オペラ・ハット』のジーン・アーサーや、プレストン・スタージェス監督『レディ・イヴ』のバーバラ・スタンウィックのような風格さえ感じられました。


 


 エンドクレジットの甘酸っぱい演出も(必見!)、この映画を締めくくるにふさわしい素晴らしさです。つくづく、日本にはプロムがなくて本当によかったと思います。ジョジーの気持ちがわかる女子は日本にもいっぱいいるのでは。高校時代、男子とほとんど口をきかなかった私も、そのひとりです。


 


 ジョジーの高校生活は学食とファストフードで彩られます。特に、ロブが学園で人気者になるために実行した、学食の食べ物を使ったある「秘策」には笑いました。あのシーン、大好き! パイやシェイク、デコレーションケーキ、アイスクリームなどチープな甘いものがいっぱい出てくる中、ジョジーとコールソン先生の距離を近づける大事な食べ物がブラウニーでした。学園のアイドルと仲良くなるために人気のクラブに行ったジョジーは、マリファナ入りのブラウニーを食べてしまい、ステージ上で痴態をさらします(このドリュー・バリモアも可愛い)。そんなジョジーを見ても、彼女にますます好感を持つコールソン先生! 怒られたり泥酔したり失敗したり、時には公衆の面前でブザマな姿をさらさなければならないOLにとって、度量の大きいコールソン先生は最高にいい男! 





 ジョジーが食べたブラウニーはねっとりしたチョコレートクリームが塗られていてデビルズフードケーキみたいだったけど、せっかくの機会なので、前々から気になっていたロンドンのチョコレートショップのポール.A.ヤングさんのレシピでブラウニーを作ってみました。日本国内で翻訳本が発売されていないので、以下に概要を掲載します。


●ポール・A・ヤングさんのブラウニー

【材料】
・無塩バター 100g
・ゴールデンカスターシュガー 250g
・ゴールデンシロップ 75g
・70%ダークチョコレート 275g
・放し飼いの鶏の中くらいの卵 4個
・中力粉 70g
・ココナッツフレーク 50g
・ドライチェリー 100g


【作り方】
・オーブンを160℃に余熱する
・大きなソースパンで、バター、砂糖、シロップが滑らかになるまで溶かす
・火を止めてチョコレートを加え、よく混ぜる
・卵を溶いてチョコレートの混合物と混ぜ合わせる
・小麦粉、ココナッツを加え、十分に混ぜる
・クッキングペーパーを敷いた15cm×20cm×2.5cmのトレイに注ぎ、平らにならす
・チェリーをブラウニーの表面に散らし、20分間焼く
・オーブンから出して冷まし、一晩冷蔵庫で冷やす
・型から出して、ペーパーを取り除き、濡れたナイフを使ってブラウニーの端を切り落とし、好きなサイズの四角形に切る
・食べるときは室温もしくは温める
・密閉容器に入れて冷蔵庫の中で4日間保存できる


ポール・A・ヤング著『adventures with chocolate』より






 料理研究家のデヴィッド・ルボヴィッツさんが、ポール・A・ヤングさんのブラウニーを「ロンドンで一番美味しい」と言っていたので気になっていたら、レシピ集が出版されていたので、その中の「黒サクランボとココナッツのブラウニー」を作りました(ドライクランベリーで代用)。しかし焼く温度が低いところに不安が…。これはねっとりタイプのガトーショコラのレシピに似ている? 過去、ねっとりタイプのガトーショコラを何度か作ったことがあるのですが、実は一度もうまく焼けたことがありません。不安を感じつつ、とりあえずレシピ通り一六〇度で二〇分焼いて取り出したら、生地がタプタプと型の中で波打って、どう考えても生焼け。それで再度、一七〇度に予熱したオーブンで一〇分焼いたら、表面が一センチくらい膨らんで裂け目ができていました。





 やっぱりこれくらい火を通さないとダメだろうと納得して粗熱を取り、一晩冷蔵庫で寝かしたのですが、翌日切ってみたら、まだネトネト過ぎて包丁でスムーズに切れません。ポールさんのオーブンではいいかもしれないけど、わが家のオーブンは、このレシピではダメみたい。次は生地を半分の量に減らして、一七〇度で二〇分~三〇分焼いて、中の方だけしっとりとなるようにしてみたいです。ガトーショコラ系は何が正解なのかがわからなくて難しい。でもそれって自分の中にイメージがないってこと? パンみたいな軽いパフパフのブラウニーじゃなくて、表面はカリッとして中がちょっとしっとりネットリどっしりしたブラウニーを作りたいのは確かなのだけど、果して、美味しいブラウニーとは!?


 


 

2012年4月6日金曜日

ヤング≒アダルト(2011年)

メイビスがラストシーンで食べるのはドーナツ。


 仕事の関係でTVドラマ「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ」を見なければならない機会があり、参考のために、同じくディアブロ・コディが脚本を書いた映画『ジュノ/JUNO』も続けて見たら、すっかり彼女のファンになってしまいました!

 人生においてマイナスとしか思えない事柄も(多重人格症や未成年の妊娠)、意外とマイナスじゃない、もしかしてかえってプラスかも? と思えるような、彼女が描く「幸と不幸の境目がなくなる瞬間」が大好き。というわけで、ディアブロ・コディの新作が来たら映画館に見に行こうと待ちかまえていたところ、ジェイソン・ライトマン監督『ヤング≒アダルト』が封切られたので、さっそく日比谷のシャンテに行ってきました。

 楽しみに思うのと同時に、主人公が「もう若くない田舎出身の負け犬女」と聞いて、「もう若くない富山出身の負け犬女」としては「どれどれ(お手並み拝見)」という気分で見たのも本当のところです。


 


 若者向け小説のゴーストライターでミネアポリス在住、三十七歳のメイビス(シャーリーズ・セロン)が映画の主人公です。かつて人気だったシリーズ小説も打ち切りが決定し、浮かない気持ちで最終回を執筆する日々を送っていた彼女のもとに、元カレのバディ(パトリック・ウィルソン)から赤ちゃん誕生のメールが届きます。最終回の恋の結末の構想を練りつつ、パッとしないデートをした翌朝、運命の恋人を取り戻さなくてはならない気分になったメイビスは、故郷のマーキュリーへ! さっそくバディと再会し、彼にまだ自分への思いが残っていることを(勝手に)確信したメイビスは、元いじめられっ子のマット(パット・オズワルド)の制止をふりきって、バディの妻のバンド演奏会、赤ちゃんの命名式へ誘われるままに突進するのですが……というコメディです。




 都会に暮す業界人なんだけど、ニューヨークではなくミネアポリス住民。
 人気シリーズを手がける作家なんだけど、名前は表には出ないゴーストライター。
 オシャレでゴージャスな美女なんだけど、酔っ払って化粧をしたままベッドになだれ込むだらしない女。

 そんなメイビスに呆れるより共感できるところが多すぎて、大笑いしながら見ました。よほどきちんとしていて性格がよく上等な人間でない限り、彼女くらいの欺瞞と傲慢は誰にでも思い当たるところがあるのでは? 

 ダイエットコーラの2リットルペットボトルを常飲しつつも、アイスクリームやクッキー、ブラウニーなど甘いものを食べまくる、というのも私が日々やっていることと同じ! 女性の「甘いもの&ダイエット生活」を白日の下に晒してみると、メイビスに劣らないクレイジーな話はゴロゴロ転がっているはずです。甘いものひとつとっても、ディアブロ・コディの目の付けどころは面白く、彼女が描く「もう若くない田舎出身の負け犬女」は期待を裏切らない楽しさでした。





 欺瞞と傲慢にまみれたメイビスは、映画が終る頃には改心して何かを得る? 成長して故郷を去る? 予想とまったく違って、最後に待っていたのは、ちょっと震えるくらい感動的な結末でした。

 あのラストシーンのシャーリーズ・セロンが観客に与える勇気と力強さを何かにたとえるなら、今村昌平監督『豚と軍艦』のラストシーンでひとり横須賀から出て行く吉村実子のガッツに匹敵すると言いたいです。

 そして最後にシャーリーズ・セロンは今までと変わりなくココナッツフレークがふりかけられたドーナツを口にくわえたまま車を発進させます。何故しつこく最後までメイビスは甘いものを食べるのかというと、彼女は相変わらずだらしない女で、自分の欲望に正直な女で、だからこそ他人の欲望も認める女で、他人に同情するなんて失礼なことは絶対にしない女だからです。




 シャーリーズ・セロンのガッツに敬意を表し、人生初のドーナツを作ってみることにしました。

 しかし私が食べたことのある手作りドーナツというと、子どもの頃に母が作ってくれた、“余ったホットケーキミックスを丸めて揚げ、砂糖を入れた紙袋に入れて振る”という「穴のあいてないドーナツ」だけです。

 ドーナツが出てくる映画はたくさんあるのに、レシピはもとより、ドーナツはいつごろから食べられているのか、刑事がドーナツを食べる映画が多いのは起源となった作品があるのかなど、わからないことだらけ。

 そこでアメリカの料理について調べるときは必ず目を通すファニー・ファーマー著『The Boston Cooking School』をパラパラ見てみると、一八九六年版には三種類のドーナツのレシピが、一九一八年版には五種類のレシピが掲載されていました。少なくとも一九〇〇年頃には既に、ドーナツは定番のおやつだったことが想像できます。




 一九一八年版の五種類のドーナツは、Wheatless Doughnuts(ライ麦のドーナツ)、Raised Doughnuts(イーストを使ったドーナツ)、Doughnuts1(小麦粉と牛乳のドーナツ)、Doughnuts2(サワークリームとタルタルクリーム=酒石酸水素カリウムを使ったドーナツ)、Doughnuts3(ケーキのように黄身と白身を分けて泡立てたドーナツ)。

 初心者は最もシンプルなDoughnuts1に挑戦してみることにしました。オリジナルの量では多過ぎるので、その半量で試しましたが、初挑戦には初挑戦なりの試練が。オリジナルの量で作っていたら、とんでもないことになっていただろうとわかるのは後になってからでした。掲載されていたレシピは下記の通りです。

★『The Boston Cooking School』のドーナツ

【材料】
・砂糖 134g
・バター 30g
・卵 3個
・牛乳 240cc
・ベーキングパウダー 4ts
・シナモン 1/4ts
・挽いたナツメグ 1/4ts
・塩 1と1/2ts
・小麦粉 427g


【作り方】
バターを室温でやわらかくして1/2の砂糖を加える。ふんわりするまで卵をよくかき混ぜる。残りの砂糖を加え、先ほどのバターの混合物と混ぜる。3と1/2カップの小麦粉、ベーキングパウダー、塩、スパイスを混ぜてふるいにかける。生地を平らにのばせるくらい十分に小麦粉を加える。混ぜたものの1/3を、打ち粉をした板に打ちつけ、少しこね、軽くたたき、1/4インチ(約6mm)の厚さに引き伸ばす。ドーナツカッターで型を取り、たっぷりの油で揚げる。串で刺して引き上げ、キッチンペーパーで油を吸い取る。ドーナツカッターで型を取った余りを、残りの生地の1/2に加えて平らにのばし、形を作り、前と同じように揚げる。それを繰り返す。ドーナツは早く油の上の方にあがってこなければならず、片側が茶色になったら、同じ温度を保ったまま、茶色の側を上にひっくり返されなければならない。もし冷たすぎるなら、ドーナツは油を吸収するだろう。もし熱すぎたら、ドーナツは十分に火が通る前に茶色になるだろう。油で試してやり方を習得しよう。

ファニー・ファーマー著『The Boston Cooking School』の一九一八年版より






 オリジナルの半量の材料を混ぜ合わせてみると、ケーキの生地くらいのゆるさだったので、まずはレシピ通り小麦粉を足しました。

 しかし、足しても足しても生地はドロドロのままで、いつのまにかけっこうな量の小麦粉を足していることに気付きます(量は不明! これをオリジナルの量で作っていたらと考えるとゾッとするほどの量)。

 このまま調子に乗って足していると、カチカチのドーナツを何日間にも渡って食べ続けることになると思い、意を決してゆるい生地のままドーナツカッターでくり抜き、慎重に油に投入してみました。揚がったのは、ミスタードーナツのオールドファッションのように固くてどっしりした、パンのようなドーナツ。どこまでゆるい生地に踏み止まれるかに、やわらかいドーナツへの鍵が隠されているのでしょうか? 

 そしてクリスピー・クリームのオリジナル・グレーズドのような、ふわふわドーナツを作るにはたぶんイーストを使わなくてはならないのでしょう。次にドーナツ映画を見たら、黄身と白身を分けて泡立てる生地にも挑戦してみたいです。





 メイビスの故郷である田舎町「マーキュリー」は架空の町だそうですが、彼女が住んでいるミネアポリスといえばプリンスの町、『パープル・レイン』の町です。

 伝説のライブハウス「ファースト・アベニュー」と巨大なショッピングモールがあり、大きな道路をバイクで走れば湖に到着します。

 すぐ隣には、スコット・フィッツジェラルドが生まれたセントポールがあり、『冬の夢』の舞台となったホワイトベアー湖も近いです。


  


 『パープル・レイン』やフィッツジェラルドの小説では、ちょっとさえないアメリカ中西部出身の男の子が、南部からやってきた情熱的な女の子と運命の恋に落ちますが、『ヤング≒アダルト』では、中西部にくすぶっているのは野心満々の中年女で、元カレがフィッツジェラルドの主人公のようにロマンティックにいつまでも自分のことを好きでいてくれると思ったら大間違いであることがよくわかります。

 しかし現代のミネアポリスの女は、ゼルダのように精神が崩壊することはなく、デイジーのように上流階級の夫の庇護のもとでしか生きられないこともなく、ジュディーのように醜く不幸になるのでもなく、もっとしぶといのでした。やっぱりディアブロ・コディの作品は新鮮でガッツがあって、描かれている事柄やイメージ以上のものを喚起するので面白いです。

これからも彼女について行きます!


 


2010年9月10日金曜日

ライフ・アクアティック(2005年)

アンジェリカ・ヒューストンが焼いてくれる山食パン。


 ずっと暑かったですが、とうとう夏も終わりそうでさびしいです。

 この映画は海がいっぱい映るので、あまりに暑かった頃に、涼むために見ました。ウェス・アンダーソン監督の映画は物悲しくて好きなのですが、いつまでも大人になりきれない息子と父の話ばっかりなので、女性の私としては警戒しつつ突き放しつつ鑑賞してます。しかし、この映画は不覚にも大泣きしてしまいました。


 


 主人公のスティーヴ・ズィスー(ビル・マーレイ)は海洋探検家かつドキュメンタリー映画作家です。クラウス(ウィレム・デフォー)、妻のエレノア(アンジェリカ・ヒューストン)、ペレ(セウ・ジョルジ)、ウォロダルスキー(ノア・テイラー)らから成る“チーム・ズィスー”を率いてベラフォンテ号に乗り、世界中の海を冒険して作品を撮っています。しかしこの九年間はヒットがなく、盟友のエステバン(シーモア・カッセル)を失った冒険を記録した新作も、映画祭で不評でした。そこでスティーブは再起を賭け、エステバンを殺したジャガーザメに復讐する旅を計画します。その新しい旅に、「スティーヴの息子」と名乗るネッド(オーウェン・ウィルソン)、不倫相手の子どもを妊娠中の海洋雑誌記者のジェーン(ケイト・ブランシェット)も同行することになり……というコメディです。


 


 スティーヴのモデルはフランスの海洋学者、ジャック=イヴ・クストーなのだそうです。確かにクストーとルイ・マルが共同監督した『沈黙の世界』を見たら、クストーはスティーヴと同じボンボン付きの赤いニット帽を被っているし、映画に使われている字幕の書体も似てるし、船内でチェロを弾く乗組員がいるし、犬もしっかり出て来ました。しかし、ウェス・アンダーソンとノア・バームバックによる音声解説では、クストーの名前を言っていると思われる箇所はすべて「ピー」音が! 映画のエンドクレジットにはちゃんと「IN MEMORY OF JACQUES-YVES COUSTEAU ~」とあったのに。


 


 ウェス・アンダーソン監督作品おなじみの父と息子の話に重ねて、この映画で語られるのは“ニセモノ”の話です。ヤラセドキュメンタリー、クストーのパチモノ、ヘンリー・セリックのアニメによる架空の海洋生物、息子と名乗る怪しい青年、ポルトガル語でデヴィッド・ボウイを歌うブラジル人、不倫相手の子どもを妊娠中の女、三本足の犬、浮気しまくりの仮面夫婦などなど全編に“ニセモノ”たちが溢れ返ってます。

 そんなニセモノの人々が、正統や本物や真実ってことを超えて、思いがけなく強い絆を見せてくれるので、意表をつかれて大泣きしてしまいました。ウェス・アンダーソン映画でおなじみ、端が歪むくらい広角で撮られたスタイリッシュな映像、ポップな色調、マーク・マザーズボーのかっこいい音楽、かわいい美術で作られた精巧な細工のような世界も、他の作品以上に合っているように感じます。


 


 ウェス・アンダーソン映画は、男性キャラクターがいつもなんだか似てるように、女性もたいていアンジェリカ・ヒューストン演じる知的で強い「母」か、タバコをひっきりなしに吸う「チンピラ娘」が登場します。

 ジェーンを演じるケイト・ブランシェットは、この映画ではひっきりなしにガムを噛んでますが、妊婦でなかったらガムはタバコだったはずです。そして今回のアンジェリカ・ヒューストン演じるエレノアは、強いけれど、子どものいない母でした。

 ベラフォンテ号の船内で、エレノアはフライパンで山食パンをトーストして、牛乳を添え、父のない子を産もうとしているチンピラ娘のジェーンに食べさせます。チーム・ズィスーのみなさんはケーキを作ったり、カンパリを飲んだり、でかいロブスターを食べたり、モエ・エ・シャンドンのマグナムボトルを飲んだり、ベラフォンテ号の中は楽しい食べ物シーンがいっぱいありましたが、女性二人で“ある秘密”について話す、この山食パンシーンが一番好きでした。エレノアが、ジェーンのお腹の中の子どもに、この上なく優しく、生命のもととなる栄養を与えつつ、ある子どもを容赦なく残酷に殺す、というすごいシーンです。