ラベル おかず の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル おかず の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2013年1月15日火曜日

ルビー・スパークス(2012年)

1874年のオハイオ州のレシピで作ったミートローフ。

 『宇宙人ポール』の半券を使って『ルビー・スパークス』を千円で見ました。

 監督は『リトル・ミス・サンシャイン』を撮った、ジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリス夫婦です。実は『リトル・ミス・サンシャイン』はちょっと苦手な映画でしたが、話題の新作恋愛映画はやっぱり見ておきたい! そして主演の女の子が自ら脚本を書いているのが気になる! ので映画館に行ってきました。二〇十三年“映画館初め”は渋谷のシネクイント、この『ルビー・スパークス』です。


 


 十九歳で小説家デビューして天才と言われたものの、新作が書けず、新しい恋人もできないまま、スランプに陥っているカルヴィン(ポール・ダノ)が主人公です。ある日、彼は夢の中で、理想の女の子、ルビー・スパークス(ゾーイ・カザン)と出会います。彼女のことを小説に書いてみたところ、現実の世界にルビーが現れ、自分の恋人になってくれて……というラブコメです。


 『(500)日のサマー』のズーイー・デシャネルと同じように、『ルビー・スパークス』主演のゾーイ・カザンも超美人というわけではないのに可愛い! ルビーのカラフルなファッション、インテリアもデザインもおしゃれなカルヴィンの家、二人の恋愛生活を彩る音楽も素敵です。そして、この映画も『(500)日のサマー』も、それ以上でもそれ以下でもないところが、いいところでもあり、物足りないところでもあるような気がします。


 


 そんな可愛いゾーイ・カザンは、『エデンの東』『ブルックリン横丁』『紳士協定』などで有名なエリア・カザンの孫で、顔がそっくりでびっくりします。


 


 しかも父のニコラス・カザンは『マチルダ』『アンドリューNDR114』などの脚本家、母のロビン・スウィコードは『ジェイン・オースティンの読書会』の監督かつ『若草物語(一九九四年版)』『SAYURI』などの脚本家という、業界人一家育ち。かといってゾーイ・カザンは単なる二世・三世タレントではなく、イェール大学を卒業した才媛で、サム・メンデス監督『レボリューショナリー・ロード』ではレオナルド・ディカプリオの不倫相手という端役でヌードも披露しています。


 


 ルビーはカルヴィンが作った女の子キャラなので、もちろん料理も上手です。登場して間もなく、大きなボールを抱えて卵を溶いていたので、笑いました。

 台所まわりの美術もいちいち可愛かったです。ルビーのエプロンは、彼女のテーマカラーというべき赤色。ちょっと紫がかったような濃く鮮やかな深い赤で、とても印象に残ります。また、ルビーが現れた翌朝、彼女がシリアルを食べているボウルの色も紫がかった赤、「ルビー色」で可愛いです。


 


 カルヴィンの兄のハリー(クリス・メッシーナ)が遊びに来たときも、ルビーはミートローフをふるまいます。映画ではすぐに食後シーンに切り替わってしまうので、ルビーがどんなミートローフを作ったのかは不明ですが、テーブルの上に、ル・クルーゼのチェリーレッドのココット・オーバルみたいな赤い鍋がドン!と置いてありました。そこで私も「ルビーの出身地であるオハイオ州の家庭に伝わっているレシピ」というイメージで古い料理書を調べ、ル・クルーゼの鍋を使ってミートローフを焼いてみました。


 


 見てみたのはコネチカット州とオハイオ州のメソジスト監督教会の料理書『METHODIST COOK BOOK』(一九〇七年刊行)と、オハイオ州ポーツマスの軍人共済組合の料理書『Portsmouth monumental cook book』(一八七四年)です。前者には四つの、後者には二つのミートローフのレシピが掲載されていました。



 


 「VEAL LOAF」と肉の種類を仔牛と明記している場合は、約三ポンドの仔牛肉と二分の一ポンドの塩豚と、卵、砕いたクラッカー、こしょう、塩がだいたい共通の材料。レシピを紹介している女性によって、そこにセージを入れたり、バター、クリーム、牛乳、タイムを入れたりという感じです。現在よく見かけるようにゆで卵を入れたり野菜を刻んで入れたりはしない、シンプルな料理です。

 わが家ではいちばんシンプルな下記のレシピで、量を三分の一に減らして作ってみました。

★オハイオ州ポーツマスのヒコック夫人のミートローフ

生の赤身の仔牛肉を3ポンド、1/2ポンドの塩豚(近所になかったのでベーコンで代用)を、加熱しないまま、よく挽く。6個のボストンクラッカーの砕いたもの、よく溶いた3個の卵、ティースプーン山盛りのコショウ、ティースプーン1杯のタイムを混ぜて、皿にしっかりと詰める。3時間焼く。冷ましたものをスライスしてお茶と一緒にいただくと美味しい。
『Portsmouth monumental cook book』より



 わが家のル・クルーゼはココット・ロンドです。そこに牛肉を約五〇〇gに減らしたレシピで作った素材を、かまぼこ状にして置きました。どうなるのかわからなかったので一応クッキングシートを敷きました。
 フタをしないで二〇〇℃でまずは三十分。オーブンから取り出すと、上はいい焼き色で側面がほんのりピンク色。肉の脂とアクが底に溜まっていたので、ここでクッキングシートごと捨てました。フライパンで焼き色を付けてアクと脂を出してからオーブンで焼いてもよかったかもしれません。ついでにさっと茹でた野菜を周囲に散らして、二〇〇℃で十分、追加で焼きました。

 これでしばらく粗熱をとって、スライスして、ソース(ケチャップ+ウスターソース+赤ワインなど好みで)をかけて食べます。わが家では最近流行中の「なんでもパクチーと一緒に食べる」をこのミートローフでも試したら、ものすごく美味しかったです!!


ミートローフをパクチーと一緒に食べるのが流行中。

2012年10月14日日曜日

ゴッドファーザーPART1(1972年)

鑑賞後に食べたいミートボールスパゲッティ。


 なぜいまさら見ているのかというと、去年WOWOWで放送していたのをチラ見したらフルハイビジョンのデジタルリマスター版があまりに美しくて感激したからです。昔はアポロニアのオッパイが粗末すぎるだの、ソフィア・コッポラがブスすぎるだのなんだのかんだの言われたシリーズでしたが、そんなの今となってはオールオッケー。ニューヨークを舞台にしたマフィアのドラマは、現代日本で働く女性にとってもなかなか示唆に富んでいました。


 


 一九四五年のニューヨーク、スタテンアイランドのコルレオーネ屋敷で行われているコニー(タリア・シャイア)の豪勢な結婚式から映画は始まります。披露宴には結婚を祝う客と、コニーの父でマフィアのドンであるヴィト(マーロン・ブランド)に頼みごとをする客で溢れていました。コルレオーネ家を含むニューヨーク五大マフィアは休戦状態でしたが、ソロッツォ(アル・レッティエーリ)の麻薬売買の仕事をドンが断ったことで、ソロッツォの後ろにいるタッタリア・ファミリーとの敵対関係が再燃し、ドンが狙撃されます。喧嘩早い長男のソニー(ジェームズ・カーン)、気の弱い次男のフレド(ジョン・カザール)は頼りにならず、大学を中退して海軍に入り、堅気になると思われていた三男のマイケル(アル・パチーノ)がドンの命を救って、ソロッツォを殺し……という物語です。


 


 久々の鑑賞がニヤニヤするくらい楽しかった理由はデジタルリマスターの美しさだけでなく、ダナ・R・ガバッチア著『アメリカ食文化 ―味覚の境界線を越えて』(青土社)を読んでいたせいもあります。『ゴッドファーザー』シリーズに描かれる食は、まさにこの本で研究されているアメリカのエスニック・ニッチな食事とピタリと重なってました。タッタリア家の襲撃に戦々恐々としているときにもトマトソースを手作りしてパスタを食べるコルレオーネ家。一九二〇年代の若き日のヴィトが起業するオリーブオイル輸入会社。戦いの前にみんなで食べるデリバリーの中国料理。新鮮な果物や肉やパンの屋台が賑やかに並ぶコルレオーネ家の縄張り。クレメンザが殺しに出掛ける前に奥さんに買ってきてと頼まれる菓子「カノーリ」。




 ヴィトが身ひとつで渡ってきたアメリカでサバイブするためにマフィアとなったように、イタリア料理も、割り込む余地のないほど産業化されていたアメリカの食品業界で、イタリア移民がのし上がるための手段になったことがガバッチア先生の本を読むとわかります。一九二〇年代までは不衛生で低栄養で改善すべきものとされていたのが、恐慌と戦争の食料不足を経て推奨される食事へと変わり、大量生産されて「アメリカの食」となるイタリア料理。『ゴッドファーザー』の食事シーンに「美味しそう」以上の味わいがあるのは、ヴィトやマイケルの物語と重層的に響き合うもうひとつのアメリカの物語がそこにあるからです。そして料理だけでなく、女・音楽・街の物語もめくるめくように響きあっているところに、この映画の衰えない豊かさの理由があるような気がします。


 


 ドン・コルレオーネの周りは欲しがる人ばかり。ドンは彼らの望むものを与える代わりに、ここぞというときに容赦なく代償を求めます。ただし血を分けた家族だけは別。ギブ&テイクではなく、家族には欲しがるものをドンは惜しみなく与えていました。ところがマイケルだけはドンに何も求めず、反対にドンの命を守り、ドンのために殺人を犯します。息子としての愛情から行われたことが、コルレオーネ家においてはドンとの契約になり、マイケルも天啓のように自分の宿命に気付き、ドンの正統の後継者になっていくのです。 本当に欲しいものを手に入れるには「欲しがるだけじゃダメ!」 タナカカツキ先生のトン子ちゃんもそう言ってました。


 


 そんなコルレオーネ家の食事の中でもロッコ(トム・ロスキー)がレシピをマイケルに伝授しながら作るミートボール・ソーセージ・トマトソースには目が釘付けになります。ロッコが言うには、油を熱し、にんにくを揚げて、トマトにトマトペーストを入れて焦げ付かないようにかき混ぜる。ミートボールとソーセージを入れて隠し味に赤ワインと砂糖を少々……え!? 砂糖…!? さすがに砂糖は入れませんでしたが、このトマトとにんにくのみのレシピは、イタリアの家庭で長く広く読まれた料理書とされるペッレグリーノ・アルトゥージ著『La scienza in cucina e l'arte di mangiar bene』(『料理の学と正しい食事法』、1871年初版)の“スーゴ”に近い感じでしょうか。


★ペッレグリーノ・アルトゥージのSugo di pomodoro

“スーゴ”と対照的な、“サルサ”と呼ばれる別のトマトソースについては後で説明する。スーゴはシンプルに、トマトピュレだけで作られなければならない。好みでセロリやパセリ、バジルの葉を刻んだものを加えてもいい。

ペッレグリーノ・アルトゥージ著『La scienza in cucina e l'arte di mangiar bene』より


2012年10月3日水曜日

赤い殺意(1964年)

貞子が作っていたのはサバの味噌煮? 


 八月に再び、石巻出身の友人にくっついて宮城に行きました。ヘドロかき出しボランティアも含めて、震災後、四回めの宮城です。 仙石線の一部はまだ復旧していないので、途中で代行バスに乗って石巻まで行きました。立町、日和山、中瀬など石巻駅周辺しか歩けませんでしたが、半年前はカメラを向けることすら憚られた門脇に、何かを覆い隠すように背の高い草が生えていたのが印象的でした。


石巻のあちこちに石標が建てられていた。


 もちろん草の中には住宅の区割りの跡があり、各敷地には慰霊の花が手向けられ、草の向こうには堤防と見紛うほど高く長い瓦礫の山が続いていました。しかし、初めて訪れる人のなかにはここに町があったと思えない人もいるのでは…。震災直後ですら、酷いことがいっぱい起きた町の片付けられた跡だけを見て「あそこはたいしたことなかったんでしょ」と言ってしまう東北に無縁の人がいて唖然としましたが、この草を見ていると、まだ何も解決していないのに遠くにいる人との心の温度差ばかりが広がっていく予感がして少し恐ろしいような気持ちにもなりました。


石巻の「プロショップまるか」で地元の名物が食べられる!


 辺見庸が「仙台なにするものぞ」と言っていたバンカラな石巻高校生だったように、私の知っている石巻の人々もみなさん仙台は「近くにある大きな都市」というぐらいの関わりで、私も宮城には何度も行っているのに、仙台は通過するだけでした。ところが今年の夏は珍しく半日あまり、ひとりぼっちで仙台で時間をつぶさなくてはならないことに! 仕事では数年前に小鶴新田駅にある会社にお世話になって、社長に「伊達の牛たん」でランチをご馳走していただいたことがありますが、何の用もなくひとりで仙台を歩くのは本当に新入社員OLだった頃以来です。



 


 せっかくなのでまずはずっと気になっていた賣茶翁という和菓子屋を目指しました。みちのくせんべい、どら焼き……そして、あわよくば店内で夏期限定のかき氷を食べたいなあと店の玄関に辿り着いたら、よりによって定休日でショック! どうしようと思ったら、賣茶翁の目の前の市民会館の隣に心惹かれる蒸気機関車があります。仙台で蒸気機関車と言えば今村昌平監督『赤い殺意』ではないですか! せっかくなので映画の中の素晴らしいシーンが忘れられない広瀬橋にも足をのばしてみることにしました。





 『赤い殺意』の主人公の貞子(春川ますみ)は、夫の高橋吏一(西村晃)と息子の勝と暮らす主婦です。貞子は吏一の祖父の愛人の孫で、女中として働くために東京から仙台の高橋家へやってきたのですが、吏一に言い寄られて勝を産みました。格式高い旧家の高橋家に籍も入れられないまま、肩身の狭い日々を送っていた貞子は、吏一が出張中のある夜、強盗の平岡(露口茂)に犯されてしまいます。自殺しようと蒸気機関車に飛び込むものの死にきれず、出張から帰ってきた夫にも打ち明けられず、ズルズルと日常に戻りつつあった貞子の前に、再び平岡が現われ…という物語です。


一九六八年まで東北本線を走っていた。


 残酷な家父長制やレイプが出てくる陳腐でイヤな話を、素晴らしい映画にしているのが、主演の春川ますみ、雪、機関車、トンネルでした。最近は寒さが辛くて、冬より夏が好きになってしまいましたが、「雪っていいな」という気持ちをしみじみ思い出すくらいこの映画の雪は素晴らしいです。映画の『おくりびと』にはなくて、原作小説『納棺夫日記』にはあった雪。キューブリックの『シャイニング』やジェイムズ・ジョイスの『死せるものたち』と同じ雪。それは「雪=死」なのですが、今村昌平作品のヤケクソでガッツのあるヒロインに、そんな雪はとても似合う気がしました。よく見かける「女子力アップ映画」特集にこの『赤い殺意』が入ることは絶対にないと思いますが、本当はこういう映画こそ、見た後にちょっと女子力、女子の胆力(?)がアップするような気もします。


 


 そんな虐げられてる女の映画なんて気が滅入るわ…と思うかもしれませんが、演じる春川ますみが素晴らしすぎて、驚くほどにまったく滅入りません。酷い目に遭った後、線路に飛び込んで死のうとする春川ますみの丸っこい体にも、蒸気機関車をはじき飛ばしそうなバウンド力があります。自殺に失敗した後、言い訳のように息子の顔を見てから死のうと決心し、「死ななきゃ」と言いながら丼飯に味噌汁をブッかけてズルズルすする姿もすごいです。虐げられて死んでいるように生きているのに、蜜柑、煎餅…と食べまくる春川ますみ。同じ東北が舞台の『モダン道中 その恋待ったなし』は岡田茉莉子の着替えの多さに感動しましたが、この映画は春川ますみの食べっぷりに感動します。


広瀬橋、それと平行に走る東北本線の鉄道橋。


 いつまでも自分に会いに来る平岡に「もう会いに来ないでけろ」と金を渡した後、春川ますみは仙台駅から路面電車に乗って広瀬橋の真ん中にある駅で降りて家に帰ろうとします。しかしここで春川ますみは思い直して、反対側の停留場に渡り、再び電車に乗って平岡に会いに仙台に戻るのでした。彼女が心を翻した瞬間、天から激しく雪が降ってくるこのシーンが素晴らしくて大好き。映画の中では、春川ますみの心が変るにつれ季節も秋から冬へと移り、さらにドサドサと真っ白な雪が降ります。仙台の地にあまねく、降れども降れども尽きぬように積る雪。現在の仙台は昔ほど雪が降らないかもしれませんが、こんな映画を撮らせてしまう東北って本当に素晴らしい土地だなあと改めて思うのでした。応援のためにもみんなもっと東北へ旅に行ったらいいのになあ。


 


 春川ますみが事件のことを夫に告白できない緊迫感のなか、包丁でブツ切りにしていたのがサバです。沸騰した鍋に放り込んでいたので、味噌煮でも作るのでしょうか。宮城のサバと言えば石巻の金華山沖で獲れる「金華サバ」が有名ですが、残念ながら私は食べたことがないです。見かけたら購入して東北を応援したいと思います。三陸の魚はいまだに近所の食料品店であまり見かけません(秋鮭は見た)。石巻は特に大きな港にも小さな浜にも水産加工場がたくさんあったのが印象深いので、漁業や水産加工業が立ち直らないと宮城の復興はまだまだ先なのではないかという気がします。わが家のサバは千葉産のゴマサバ。味噌は仙台味噌。レシピは特別なものではなく実家にいた頃から母に教わって作っていたものです。


★サバの味噌煮

【材料】
だし 50ml
味噌 大さじ2
みりん 大さじ1
砂糖 大さじ1
日本酒 大さじ1
しょうが 1片

【作り方】
・サバを沸騰したお湯に入れてさっと火を通す。
・上記の比率の調味料で火を通したサバを味付ける。サバの量によって量は増減させる。

 私は甘辛いのが好きなので比率よりもちょっと砂糖を多くします。ショウガをすり下ろしていっぱい入れるのが好きです。ちなみに『赤い殺意』は渋谷ツタヤにもレンタルDVDがないですが(VHSのみ)、iTunesStoreでレンタルできます。ただしHD動画ではありません。


 

2012年9月7日金曜日

日本橋(1956年)

季節はずれのハマグリの潮汁。

 OLとOL、刑事と刑事、カウボーイとカウボーイ、軍人と軍人、北島マヤと姫川亜弓(『ガラスの仮面』)、ノエミとクリスタル(『ショーガール』日記へ)などなど、同じ職業のライバル同士が力の限り戦うことでお互いを認め合う友情映画はいっぱいあります。同じ人を愛する恋敵同士が、その愛し方を通して尊敬し合う映画もいっぱいあります。ずいぶん前に淡島千影追悼の気持ちでなにげなく見た市川崑監督『日本橋』も私にはそんな映画に思えました。好きなシーンがあったので泉鏡花の原作も読み、先日、日本橋でゆかりのある場所めぐりをして来ました。





 主人公のお孝(淡島千影)は日本橋の売れっ子芸者で、西河岸の延命地蔵尊の近くの露地で置屋を始めます。その露地には芸者の幽霊が出ると噂されていましたが、気の強いお孝は千世(若尾文子)をはじめ芸者をたくさん抱えて羽振りよくやっていました。お孝は美しく優しい清葉(山本富士子)をライバル視し、清葉が振った男を自分の恋人にするという当て付けを繰り返しています。北海道の海鮮問屋の五十嵐伝吾(柳永二郎)もその一人でしたがお孝に捨てられ、清葉への未練も断てず、すべてを捨てて東京で浮浪者になっていました。ある日、清葉は医学者の葛木晋三(品川隆二)の座敷に呼ばれ、清葉に姉の面影を重ねる葛木に思いを告げられますが、旦那のいる身の清葉は彼の思いに答えられません。一石橋で悲嘆にくれていた葛木は巡査に怪しまれ、尋問を受けているところをお孝に救われ……という物語です。





 市川崑監督が小村雪岱の絵のような画づくりをしているところが面白かったです。山本富士子が雪で真っ白に染まった橋の上を赤い傘を差して渡るシーンなどまさに小村雪岱の世界で、神保町シアターの客席から溜め息がもれていました。私が一番感動したのは、お孝が二階の窓から落してしまう扇を清葉が露地でキャッチするところです。『ショーガール』でノエミとクリスタルがドッグフードを食べた話をしながら高級シャンパンのクリスタルを飲むシーンに匹敵するくらいの、素晴らしい女の友情シーン。儚い身の上の芸者同士の友情をこんな美しく描く方法があるのかと、不覚にも涙してしまいました。この扇のシーンは原作にもあります。


 


日本橋西河岸延命地蔵尊。


 お孝の置屋・稲葉家のすぐそばにある西河岸地蔵尊は今もありますが、昭和五十一年(一九七六年)に建て替えられたものだそうです。本堂には、明治座で『日本橋』が上演されたときにお千世を演じた花柳章太郎が奉納した小村雪岱画「お千世の図額」があり、申し込めば見ることができるとのこと。映画の中でお孝がお百度詣りをしていたお百度石もちゃんとありました。


日本橋西河岸地蔵寺にあるお百度石。


 葛木とお孝が出会う一石橋もまだ残っています。泉鏡花が『日本橋』を出版したのは大正三年(一九一四年)で、この一石橋の親柱が建てられたのは大正十一年(一九二二年)。そしてその親柱のすぐ脇にある「迷子しらせ石標」は安政四年(一八五七年)に建てられたので、泉鏡花が『日本橋』を書く前からここにあることになります。


葛木とお孝が出会う一石橋。


 一石橋の袂ではかつて「一石餅」が売られていたようです。しかし店は現存せず、どんな餅かすらわかりません。そのほかにも原作の『日本橋』には、苺や林檎が美味しそうな小紅屋という果物屋、河岸の立ち食い鮨、打切飴、大蒸篭で配る引越し蕎麦、上野の西洋料理、桶饂飩、八頭の甘煮、豆煎、天麩羅蕎麦、千草煎餅、紅茶などが出てきて、大正三年(一九一四年)当時の和食と洋食が混在している東京の食文化がわかるのも楽しいです。原作はそのほか「女二人が天麩羅で、祖母さんと私が饂飩なんだよ。考へて見ると、其の時分から意気地の無い江戸兒さ」なんてセリフもありました。通ぶってコダワリの蕎麦を食べるのが江戸っ子ではなくて、饂飩を食べる意気地のない感じが江戸っ子とは面白いです。


一石橋の迷子知らせ石標。


 葛木やお孝らが歩く日本橋は既に、辰野金吾が設計した赤レンガの帝國製麻ビル、東京火災保険、そして日本銀行が建っているモダン都市です。当時の建物はほとんど残ってないですが、日本銀行はいまでもその壮麗な姿を見ることができます。一石橋を渡ってその日本銀行の前に差し掛かるあたりで、実はこの映画で最も衝撃的な食事シーン、五十嵐伝吾が羆の毛皮の筒袖から蛆をむしって食べる場面が繰り広げられます。伝吾によると蛆を食べると身体が暖まって、何日も食事にありつけなくても平気なんだそうです。すごい生命力。『血と骨』のビートたけしみたいです。しかしOL日記に蛆を出すわけにはいかないので、ここでは葛木が放生会として一石橋から流した雛祭のサザエとハマグリにちなみ、ハマグリの潮汁を作りました。


一石橋の方から眺めた日本銀行。


 貧しい家に生まれながら頭脳明晰で医学者の道が開けた葛木晋三。アザラシのような男でありながら実業家として成功した五十嵐伝吾。二人は日本の近代化によって道が開けたものの、生れた境遇の暗さを払いきれず、近代と近世の間で迷子になっているように見えます。そして置屋の女将として自立するはずが恋愛で挫折してしまうお孝と、「清葉さんは楽勤め」と腰掛けOLのように揶揄される芸者から一変してお孝の跡を継いで置屋の女将となる清葉も、同じではないでしょうか。赤レンガの西洋風のビル群と電車、花街や河岸や地蔵尊が混在する日本橋という町が、彼ら彼女らの姿に重なることは言うまでもありません。そして現代の自分とそうかけ離れてる世界ではないという気もするのでした。


 


 文庫に掲載されている佐藤春夫の解説には「この一篇を一貫する主題は愛情である」とありましたが、私は「餅屋は餅屋ぢゃ、職務は尊い」という巡査のセリフがこの本のキーになる言葉のような気がします。それは私が都会でサバイブ中のOLだからでしょうか。ハマグリの潮汁は五月頃に料理して撮ったものです。NHK「ためしてガッテン」でハマグリは加熱しすぎないよう気をつけると身がやわらかくふっくら仕上げられると言っていたので、ちょっと沸騰したところで火を止めて密閉性の高い蓋をして余熱でハマグリの口が開くまで温めてみました。だし、塩、酒、醤油のシンプルな味付けながら、たいへん美味しかったです。


 

2009年12月24日木曜日

ジュリー&ジュリア(2009年)

ブフ・ア・ラ・ブルギニヨン。

 料理を作って写真を撮ってブログに映画日記をつけているなんて、いかにもライムスター宇多丸さん言うところの「BSOL(ブスで淋しいОL)」のやることですよね…。そんなBSOLとしては、「料理ブログを書いている女性が主人公の映画」と聞くとそりゃ映画館に見に行かざるをえません。というわけでノーラ・エフロン監督最新作『ジュリー&ジュリア』を見てきました。日本でも二〇〇九年の秋は料理ブログを書く女性の話題がホットでした。あの事件はどうなったのでしょうか。


 


 前作のノーラ・エフロン作品『奥さまは魔女』はさんざん叩かれましたが、ウィル・フェレルのあまりにひどすぎる役とか、有名俳優の省エネ演技のネタとか、『失われた地平線』やアクターズ・スタジオ・インタビューのパロディとか好きでした。ノーラ・エフロン作品は女の大好物「パーティ」と「意地悪」が詰まってるので嫌いになれないです。ちなみに『奥さまは魔女』に引き続き、今回も配給はソニーピクチャーズ。前作はニコール・キッドマン邸の家電がソニー製でしたが、今作はエイミー・アダムスのノートパソコンがVAIOでした。


 


 映画の主人公はもうすぐ三十歳のジュリー(エイミー・アダムス)。彼女は夫のエリック(クリス・メッシーナ)とクイーンズ地区のボロいピザ屋の二階に暮らし、政府機関のクレーム処理係として働いてます。ストレスだらけの中途半端な日々に変化を求めていたジュリーは、ジュリア・チャイルドが書いた料理書『Mastering the Art of French Cooking』の全五二四品を一年間ですべて作ってレポートするブログを始めることを決意します。そんなジュリーの一年間と、一九四九年にパリに引越して一九六一年に『Mastering the Art of French Cooking』を出版するまでのジュリア・チャイルド(メリル・ストリープ)の約十年間が平行して描かれる映画です。




 この映画は、過去のエフロン作品と大きく異なる点がひとつありました。それはコメディアン出身の俳優が重要な役を演じていないということです! そのためか、おなじみの電話ギャグやセックスギャグも薄め? 差別ギャグにいたっては皆無?という内容になってました。
 唯一ネタを披露するコメディアンは、ビデオ映像で出演するダン・エイクロイドです。彼がジュリア・チャイルドの料理番組「The French Chef」を茶化して、サタデーナイトライブで演じたコントをジュリーがテレビで見る場面がありました。この映画で一番笑ったのはここです。ついでに大好きだった「ごっつええ感じ」の四万十川料理学校のキャシィ塚本も思い出してしまいました。


 


 また、冒頭でジュリーが女友達とサラダランチをともにするシーンにも笑いました。これはもう「セックス・アンド・ザ・シティ」に対する皮肉ではないでしょうか。ニューヨーク生まれビバリーヒルズ育ちのノーラ・エフロンは、「SATC」を見て「田舎者がバッカじゃねーの」とか思うんですかね!?


 


 映画には美味しそうな料理がもちろんたくさん出てきます。パンフレットにもル・コルドンブルーが紹介するブフ・ア・ラ・ブルギニヨン(牛肉の赤ワイン煮込み)、ノルマンディー風鶏のロースト、オマール・テルミドールのレシピが掲載されていました。中でも目立っていたブフ・ア・ラ・ブルギニヨンが気になり、ジュリア・チャイルド著『Mastering the Art of French Cooking』のオリジナル本も確認してみました。和訳本は発売されていないようなので参考用に一番下に大まかに紹介しておきます。ブフ・ア・ラ・ブルギニヨンはフランスの定番料理だけあって面白いエピソードがいろいろあるのですが、長くなるのでまた別の機会に。


 


 「人と人を結びつける食って素晴らしいよね」とか「ささやかな日々の幸せを肯定していこうよ」みたいな話になったら息苦しいわ~と思い、ノーラ・エフロンはどうやってこの映画を終わらせるのだろうとハラハラして見ていたら、「私自身は、なぜか料理がとてもクリエイティブだとは考えてない」とビシッと書いていたノーラ・エフロンだけあって、そんな安直な内容ではありませんでした。映画は原作通り、九十歳になったジュリアの冷たい言葉がジュリーへ伝えられて結末に向かいます。そのジュリアの言葉によって、料理で逃避していたジュリーは自分が自分の言葉で語り始めていることを自覚し、ジュリアのフォロワーから卒業するところが素晴らしかったです。一冊の本で始まった映画にふさわしく、一冊の本で終わる結末はとても素敵です。




 ノーラ・エフロン作品は音楽の選び方もいつも楽しいですが、この映画ではドリス・デイの「A bushel and a peck」という曲がとても可愛くて印象的でした。この明るい曲が、多幸感いっぱいの映画や音楽が量産される一方で赤狩りや冷戦が暗い影を落とした時代、一九五〇年にリリースされたのかと思うと不気味にも耳に響きます。ノーラ・エフロンの両親も一九五〇年代のハリウッドで活躍した脚本家、かつ特に赤狩りの標的にされたユダヤ人です。ちょっと調べただけでは、ヘンリー・エフロンとフィービー・エフロン夫妻と赤狩りの関わりについて具体的に書かれてある文章を見つけることはできませんでしたが、引き続き調べてみたいなあと思っています。


 


 


★『Mastering the Art of French Cooking』のブフ・ア・ラ・ブルギニヨン

【材料】
(1tbs=14.78ml 1ts=4.92ml)
・ベーコンの塊 170g
・オリーブオイルもしくは調理オイル 1tbs
・約5cmのサイコロ状に切った赤身のシチュー用の牛肉 1360g
・スライスした人参 1本
・スライスしたタマネギ 1個
・塩 1ts
・コショウ 1/4ts
・小麦粉 2tbs
・フルボディの若い赤ワインもしくはキャンティ 3カップ
・ビーフストックかビーフブイヨン 2~3カップ
・トマトペースト 1tbs
・クローブ 2個
・つぶしたニンニク
・タイム 1/2ts
・くだいたローリエ
・ゆがいたベーコンの皮
・小さな白いタマネギ 18~24個
・新鮮なマッシュルーム 450g

【作り方】
・ベーコンの皮を取って立方体(約6mmの厚さで約3.8cmの長さの棒状)
・切ったベーコンと皮1.5Lの水で10分間煮て、煮汁を捨てて乾かす
・オーブンを230℃に余熱しておく
・わずかに茶色になるまでベーコンを油で約2、3分炒める
・油が煙を出すまでキャセロールを温める
・牛肉を全面よく焼けるまで炒めてペーパータオルで水分を取る
・牛肉がまだ湿っぽい場合は再度しっかり焼く
・肉を炒めた油でスライスした人参、タマネギを炒め、油を捨てる
・牛肉とベーコンをキャセロールに戻して塩コショウで味付けする
・小麦粉をふりかけて牛肉を覆うようにかき混ぜる
・キャセロールのフタをしないで、余熱したオーブンで4分間焼く
・肉をかき混ぜて再度オーブンで4分間焼き、牛肉を軽い衣で覆われた状態にする
・キャセロールを出して、オーブンを160℃で余熱する
・牛肉がひたひたになるまでワインと、ストックもしくはブイヨンをかき混ぜながら入れる
・トマトペースト、ニンニク、ハーブ類、ベーコンの皮を入れて沸騰させる
・キャセロールのフタをして160℃に余熱しておいたオーブンで2.5~3時間焼く
・肉を焼いている間、小タマネギとマッシュルームを用意する
・バターと油を熱したフライパンに小タマネギを入れ、茶色になるまで中火で約10分間焼く
・スープストックかビーフブイヨン、辛口の白ワインか赤ワインを注ぎ、塩コショウ、ブーケガルニを入れて、小タマネギがやわらかくなるまで40~50分間煮る
・バターと油を熱したフライパンにマッシュルームを入れる
・フライパンを揺らしながら4~5分間炒める
・炒めている間、マッシュルームが油を吸収し、さらに2~3分間経つと表面に再び油が現れ、茶色になりはじめる
・マッシュルームがちょっと茶色くなったら、火から下ろす
・みじん切りのエシャロットとマッシュルームを混ぜ合わせ、2分間さらに中火で炒める
・牛肉にフォークが簡単に突き刺されるようになればオーブンから出す
・牛肉が焼けたらキャセロールの中身を漉して汁だけをソースパンに移す
・キャセロールを洗い、牛肉とベーコンを戻す
・用意しておいた小タマネギとマッシュルームを牛肉の上に散らす
・ソースから脂をすくって捨てる
・ソースを1~2分間煮て浮んだ脂をすくって捨て、約2.5カップになるまで煮詰める
・濃過ぎる場合は2~3tbsのストックかブイヨンを混ぜる
・ソースを肉と野菜にかけまわして盛り付ける
・パセリのみじん切りをふりかける