2012年12月4日火曜日

恋は邪魔者(2003年)

生チョコレートの正体は?


 八月、山崎まどか先生の『女子とニューヨーク』(メディア総合研究所)を買って、その日のうちにいっきに読んでしまいました。

 大人気テレビドラマシリーズ「Sex and the City」の何がそんなに面白いのか? いままで誰が言っていることにも納得したことがありませんでしたが、この本で初めてそれをピタリと言い当てている文章を読んだ気がします。本当にすっきりしました。


 


 しかも最初は川本三郎の映画の本のように連想ゲームのごとくニューヨークを舞台にした女性映画の歴史や薀蓄を楽しむ本なのかな? と読み進んでいたら、「Sex and the City」の核心に触れる第四章で、思わず涙してしまいました。行ったこともない他人様の国の町の話で涙が出るなんて、その理由は単純です。東日本大震災を経験したために、よく知っている風景が破壊されてしまったニューヨーク市民にシンパシーを感じられるようになってしまったせいと、9.11以降のニューヨークのように、日本でも過去に味わったことのない不況の風を感じているせいだと思われます。もちろんテロと天災がまったく違うのはわかっているのですが…。

 せっかく楽しく読書したので、『女子とニューヨーク』の第一章で紹介されていたニューヨークを舞台にした映画、ペイトン・リード監督、レネー・ゼルウィガーとユアン・マクレガーが主演の『恋は邪魔者』を見ました。


 


 映画の舞台は一九六二年のニューヨーク。恋は女の人生にとって邪魔でしかないことを説く啓発本『恋は邪魔者(Down with Love)』の著者、バーバラ・ノヴァク(レネー・ゼルウィガー)がミルウォーキーからニューヨークの出版社にやってきます。編集者のヴィッキー(サラ・ポールソン)は彼女を売り出すために、プレイボーイで有名な人気ジャーナリストのキャッチャー・ブロック(ユアン・マクレガー)にノヴァクの記事を書かせることを計画しますが、キャッチャーはデートに忙しく取材の約束を反故にします。ところがその直後、『恋は邪魔者』は大ベストセラーに。スターとなったノヴァクがキャッチャーの悪口をテレビで言い触らすという反撃が始まりました。キャッチャーは宇宙飛行士のふりをして面識のないノヴァクに近付いて誘惑し、彼女の自説を覆させようと画策するのですが…というコメディです。





 この映画は、モダンなファッションやインテリア、シャーベットのようなカラフルな色使いで一九六〇年代風に映像を彩りつつ、ハッピーエンドに二十一世紀的な解釈を大胆に取り入れているところが面白いです。明るく楽しいセックス・コメディと思いきや、ハリウッドの女性映画の文脈に置いて見てみると、実はとても批評性の高い知的な作品なのでした。トッド・ヘインズ監督『エデンより彼方に』や、最近だとテイト・テイラー監督『ヘルプ』など、いかにも映画好きな頭のいい監督が撮った女性映画批評のようなアメリカ映画にちょっと疲れた気分もあるのですが、山崎まどか先生の『女子とニューヨーク』を読んで『恋は邪魔者』がどんな過去作にオマージュを捧げつつ二〇〇三年に撮られたのかを知る楽しみはまた別です。ぜひ読んでみてください!


 


 恋の代わりにバーバラ・ノヴァクが女性に勧めるのが「チョコレート」です。
 「恋をしそうになったらチョコレートを食べて我慢しろ!」と。

 そのため映画にはコンポート皿に積み上げられたキューブ型チョコレート、大きなココットで焼かれるチョコレートスフレ、「Down with Love(恋は邪魔者)」とパッケージに印刷されたオリジナル板チョコなどチョコレートがいっぱい出てきて楽しいです。

 なんで恋の代わりがチョコレートなんでしょうか?
 トラベルライターのタラス・グレスゴーさんの著書『悪魔のピクニック 世界中の禁断の果実を食べ歩く』(早川書房)によると、大量生産品でない高級なチョコレートには気分を高揚させ集中力を増進させるメチルキサンチン、テオブロミン、カフェイン、トリプトファンといった一二〇〇種類の科学物質が含まれているとのこと。一八二五年に書かれたブリア=サヴァラン著『美味礼賛』にもチョコレートは「精神を緊張させる仕事、聖職者や弁護士の仕事に従事する者には最も適したものであり、特に旅行者にはよろしい」とあります。覚醒する食べ物=恋にうっとりしない、というイメージにつながるのでしょうか。





 しかし、なぜだかチョコレートはセクシャルな話とセットになることも多いように感じます。一七七八年にサド侯爵が投獄された原因は「チョコレート・トローチに催淫剤スパニッシュフライを混ぜて乱交パーティに使おうとした罪」だったし、ブリア=サヴァランも『美味礼賛』の中で「悲しい人々のためのチョコレート」と名づけて竜涎香入りチョコレートを披露していますが、竜涎香もやっぱり異性を誘惑する効果のある香りとして知られています。そしてチョコレートが印象的に登場する映画と言うと、実は、ある映画監督の作品群を思い出すのですが、その監督は作品についても私生活についても、そのセクシュアリティがとても興味深い人物…。その話は長くなるので、また別の機会に! 


 


 チョコレートのことを考えていたら、当然チョコレートが食べたくなったので、『恋は邪魔者』にも出てきたキューブ型のチョコレートを作ってみました。

 バーバラ・ノヴァクがつまんでいたチョコレートがどんなものなのかよくわからないのですが、日本でキューブ型チョコレートと言えば、やっぱり「生チョコ」です。そして、ずっと気になっているのが「生チョコ」ってなんなの!? その正体がもうひとつよくわからないということです。例えば「パヴェ・オ・ショコラ(チョコレートの石畳)」という名前で、生チョコっぽい菓子が売られていたりレシピが紹介されていたりして、フランスにもともとそういう菓子があって、それが日本に伝わってわかりやすく「生チョコ」になったのかな? と思って調べてみたら、ラルース料理事典に載っていた「パヴェ・オ・ショコラ」は生チョコとはまったく別物。スポンジにチョコレートのバタークリームをはさんで積み重ねて、チョコレートのフォンダンを周りに塗るという菓子でした。





 生チョコってなに?

 と、わかってなかったのは私だけかもしれませんが、ボンボン・ショコラやチョコレート・トリュフやの中に入れる「ガナッシュ」が正体のようです。トリュフのように丸めたり、ボンボンのように衣をかける手間をはぶいて、四角く切ってココアパウダーをまぶしたのが生チョコ。“美味しい手抜きレシピ” ガナッシュのいいところは、口解けが滑らか、かつ、酒やスパイスを入れて、風味をいろいろ楽しめるところです。そして生チョコのレシピは他のチョコレート菓子に比べるとあっけないくらい簡単なので、自作してわがままに楽しまなきゃ損! という気がしてきます。私は酒が好きなので、ラム酒で以下のように作ってみました。ちなみにちょうど家にタカナシの生クリームが1パック余っていたので下記の分量で作りましたが、かなり大量で、食べるのが辛かったです。

★生チョコ

【材料】
・ダークチョコレート 300g
・生クリーム(乳脂肪分35%) 200cc
・水飴 大さじ1
・ラム酒 大さじ2

【作り方】
・チョコレートを細かく刻む
・鍋に生クリームと水飴を入れて沸騰させて1分間煮立たせる
・火を止めて鍋を1分間放置する
・刻んだチョコレートを鍋に入れてスパチュラでかき混ぜて溶かす
・四角い型に流し入れて冷蔵庫で1時間以上冷やして固める
・素材が固まったら型から外し、温めた庖丁で好みの大きさに切って、ココアパウダーをまぶす


 しかし「Sex and the City」も結局、ニューヨークという町、アメリカという国についての話か。アメリカ人ってそういうの好きね、と思った後に、ロベール・ブレッソンの『白夜』をユーロスペースで見たら、「Sex and the City」ってニューヨーク版『白夜』という趣もちょっとあるんじゃないかなあ、とふと思いました。


 


 


 


 


 

2012年10月14日日曜日

ゴッドファーザーPART1(1972年)

鑑賞後に食べたいミートボールスパゲッティ。


 なぜいまさら見ているのかというと、去年WOWOWで放送していたのをチラ見したらフルハイビジョンのデジタルリマスター版があまりに美しくて感激したからです。昔はアポロニアのオッパイが粗末すぎるだの、ソフィア・コッポラがブスすぎるだのなんだのかんだの言われたシリーズでしたが、そんなの今となってはオールオッケー。ニューヨークを舞台にしたマフィアのドラマは、現代日本で働く女性にとってもなかなか示唆に富んでいました。


 


 一九四五年のニューヨーク、スタテンアイランドのコルレオーネ屋敷で行われているコニー(タリア・シャイア)の豪勢な結婚式から映画は始まります。披露宴には結婚を祝う客と、コニーの父でマフィアのドンであるヴィト(マーロン・ブランド)に頼みごとをする客で溢れていました。コルレオーネ家を含むニューヨーク五大マフィアは休戦状態でしたが、ソロッツォ(アル・レッティエーリ)の麻薬売買の仕事をドンが断ったことで、ソロッツォの後ろにいるタッタリア・ファミリーとの敵対関係が再燃し、ドンが狙撃されます。喧嘩早い長男のソニー(ジェームズ・カーン)、気の弱い次男のフレド(ジョン・カザール)は頼りにならず、大学を中退して海軍に入り、堅気になると思われていた三男のマイケル(アル・パチーノ)がドンの命を救って、ソロッツォを殺し……という物語です。


 


 久々の鑑賞がニヤニヤするくらい楽しかった理由はデジタルリマスターの美しさだけでなく、ダナ・R・ガバッチア著『アメリカ食文化 ―味覚の境界線を越えて』(青土社)を読んでいたせいもあります。『ゴッドファーザー』シリーズに描かれる食は、まさにこの本で研究されているアメリカのエスニック・ニッチな食事とピタリと重なってました。タッタリア家の襲撃に戦々恐々としているときにもトマトソースを手作りしてパスタを食べるコルレオーネ家。一九二〇年代の若き日のヴィトが起業するオリーブオイル輸入会社。戦いの前にみんなで食べるデリバリーの中国料理。新鮮な果物や肉やパンの屋台が賑やかに並ぶコルレオーネ家の縄張り。クレメンザが殺しに出掛ける前に奥さんに買ってきてと頼まれる菓子「カノーリ」。




 ヴィトが身ひとつで渡ってきたアメリカでサバイブするためにマフィアとなったように、イタリア料理も、割り込む余地のないほど産業化されていたアメリカの食品業界で、イタリア移民がのし上がるための手段になったことがガバッチア先生の本を読むとわかります。一九二〇年代までは不衛生で低栄養で改善すべきものとされていたのが、恐慌と戦争の食料不足を経て推奨される食事へと変わり、大量生産されて「アメリカの食」となるイタリア料理。『ゴッドファーザー』の食事シーンに「美味しそう」以上の味わいがあるのは、ヴィトやマイケルの物語と重層的に響き合うもうひとつのアメリカの物語がそこにあるからです。そして料理だけでなく、女・音楽・街の物語もめくるめくように響きあっているところに、この映画の衰えない豊かさの理由があるような気がします。


 


 ドン・コルレオーネの周りは欲しがる人ばかり。ドンは彼らの望むものを与える代わりに、ここぞというときに容赦なく代償を求めます。ただし血を分けた家族だけは別。ギブ&テイクではなく、家族には欲しがるものをドンは惜しみなく与えていました。ところがマイケルだけはドンに何も求めず、反対にドンの命を守り、ドンのために殺人を犯します。息子としての愛情から行われたことが、コルレオーネ家においてはドンとの契約になり、マイケルも天啓のように自分の宿命に気付き、ドンの正統の後継者になっていくのです。 本当に欲しいものを手に入れるには「欲しがるだけじゃダメ!」 タナカカツキ先生のトン子ちゃんもそう言ってました。


 


 そんなコルレオーネ家の食事の中でもロッコ(トム・ロスキー)がレシピをマイケルに伝授しながら作るミートボール・ソーセージ・トマトソースには目が釘付けになります。ロッコが言うには、油を熱し、にんにくを揚げて、トマトにトマトペーストを入れて焦げ付かないようにかき混ぜる。ミートボールとソーセージを入れて隠し味に赤ワインと砂糖を少々……え!? 砂糖…!? さすがに砂糖は入れませんでしたが、このトマトとにんにくのみのレシピは、イタリアの家庭で長く広く読まれた料理書とされるペッレグリーノ・アルトゥージ著『La scienza in cucina e l'arte di mangiar bene』(『料理の学と正しい食事法』、1871年初版)の“スーゴ”に近い感じでしょうか。


★ペッレグリーノ・アルトゥージのSugo di pomodoro

“スーゴ”と対照的な、“サルサ”と呼ばれる別のトマトソースについては後で説明する。スーゴはシンプルに、トマトピュレだけで作られなければならない。好みでセロリやパセリ、バジルの葉を刻んだものを加えてもいい。

ペッレグリーノ・アルトゥージ著『La scienza in cucina e l'arte di mangiar bene』より


2012年10月3日水曜日

赤い殺意(1964年)

貞子が作っていたのはサバの味噌煮? 


 八月に再び、石巻出身の友人にくっついて宮城に行きました。ヘドロかき出しボランティアも含めて、震災後、四回めの宮城です。 仙石線の一部はまだ復旧していないので、途中で代行バスに乗って石巻まで行きました。立町、日和山、中瀬など石巻駅周辺しか歩けませんでしたが、半年前はカメラを向けることすら憚られた門脇に、何かを覆い隠すように背の高い草が生えていたのが印象的でした。


石巻のあちこちに石標が建てられていた。


 もちろん草の中には住宅の区割りの跡があり、各敷地には慰霊の花が手向けられ、草の向こうには堤防と見紛うほど高く長い瓦礫の山が続いていました。しかし、初めて訪れる人のなかにはここに町があったと思えない人もいるのでは…。震災直後ですら、酷いことがいっぱい起きた町の片付けられた跡だけを見て「あそこはたいしたことなかったんでしょ」と言ってしまう東北に無縁の人がいて唖然としましたが、この草を見ていると、まだ何も解決していないのに遠くにいる人との心の温度差ばかりが広がっていく予感がして少し恐ろしいような気持ちにもなりました。


石巻の「プロショップまるか」で地元の名物が食べられる!


 辺見庸が「仙台なにするものぞ」と言っていたバンカラな石巻高校生だったように、私の知っている石巻の人々もみなさん仙台は「近くにある大きな都市」というぐらいの関わりで、私も宮城には何度も行っているのに、仙台は通過するだけでした。ところが今年の夏は珍しく半日あまり、ひとりぼっちで仙台で時間をつぶさなくてはならないことに! 仕事では数年前に小鶴新田駅にある会社にお世話になって、社長に「伊達の牛たん」でランチをご馳走していただいたことがありますが、何の用もなくひとりで仙台を歩くのは本当に新入社員OLだった頃以来です。



 


 せっかくなのでまずはずっと気になっていた賣茶翁という和菓子屋を目指しました。みちのくせんべい、どら焼き……そして、あわよくば店内で夏期限定のかき氷を食べたいなあと店の玄関に辿り着いたら、よりによって定休日でショック! どうしようと思ったら、賣茶翁の目の前の市民会館の隣に心惹かれる蒸気機関車があります。仙台で蒸気機関車と言えば今村昌平監督『赤い殺意』ではないですか! せっかくなので映画の中の素晴らしいシーンが忘れられない広瀬橋にも足をのばしてみることにしました。





 『赤い殺意』の主人公の貞子(春川ますみ)は、夫の高橋吏一(西村晃)と息子の勝と暮らす主婦です。貞子は吏一の祖父の愛人の孫で、女中として働くために東京から仙台の高橋家へやってきたのですが、吏一に言い寄られて勝を産みました。格式高い旧家の高橋家に籍も入れられないまま、肩身の狭い日々を送っていた貞子は、吏一が出張中のある夜、強盗の平岡(露口茂)に犯されてしまいます。自殺しようと蒸気機関車に飛び込むものの死にきれず、出張から帰ってきた夫にも打ち明けられず、ズルズルと日常に戻りつつあった貞子の前に、再び平岡が現われ…という物語です。


一九六八年まで東北本線を走っていた。


 残酷な家父長制やレイプが出てくる陳腐でイヤな話を、素晴らしい映画にしているのが、主演の春川ますみ、雪、機関車、トンネルでした。最近は寒さが辛くて、冬より夏が好きになってしまいましたが、「雪っていいな」という気持ちをしみじみ思い出すくらいこの映画の雪は素晴らしいです。映画の『おくりびと』にはなくて、原作小説『納棺夫日記』にはあった雪。キューブリックの『シャイニング』やジェイムズ・ジョイスの『死せるものたち』と同じ雪。それは「雪=死」なのですが、今村昌平作品のヤケクソでガッツのあるヒロインに、そんな雪はとても似合う気がしました。よく見かける「女子力アップ映画」特集にこの『赤い殺意』が入ることは絶対にないと思いますが、本当はこういう映画こそ、見た後にちょっと女子力、女子の胆力(?)がアップするような気もします。


 


 そんな虐げられてる女の映画なんて気が滅入るわ…と思うかもしれませんが、演じる春川ますみが素晴らしすぎて、驚くほどにまったく滅入りません。酷い目に遭った後、線路に飛び込んで死のうとする春川ますみの丸っこい体にも、蒸気機関車をはじき飛ばしそうなバウンド力があります。自殺に失敗した後、言い訳のように息子の顔を見てから死のうと決心し、「死ななきゃ」と言いながら丼飯に味噌汁をブッかけてズルズルすする姿もすごいです。虐げられて死んでいるように生きているのに、蜜柑、煎餅…と食べまくる春川ますみ。同じ東北が舞台の『モダン道中 その恋待ったなし』は岡田茉莉子の着替えの多さに感動しましたが、この映画は春川ますみの食べっぷりに感動します。


広瀬橋、それと平行に走る東北本線の鉄道橋。


 いつまでも自分に会いに来る平岡に「もう会いに来ないでけろ」と金を渡した後、春川ますみは仙台駅から路面電車に乗って広瀬橋の真ん中にある駅で降りて家に帰ろうとします。しかしここで春川ますみは思い直して、反対側の停留場に渡り、再び電車に乗って平岡に会いに仙台に戻るのでした。彼女が心を翻した瞬間、天から激しく雪が降ってくるこのシーンが素晴らしくて大好き。映画の中では、春川ますみの心が変るにつれ季節も秋から冬へと移り、さらにドサドサと真っ白な雪が降ります。仙台の地にあまねく、降れども降れども尽きぬように積る雪。現在の仙台は昔ほど雪が降らないかもしれませんが、こんな映画を撮らせてしまう東北って本当に素晴らしい土地だなあと改めて思うのでした。応援のためにもみんなもっと東北へ旅に行ったらいいのになあ。


 


 春川ますみが事件のことを夫に告白できない緊迫感のなか、包丁でブツ切りにしていたのがサバです。沸騰した鍋に放り込んでいたので、味噌煮でも作るのでしょうか。宮城のサバと言えば石巻の金華山沖で獲れる「金華サバ」が有名ですが、残念ながら私は食べたことがないです。見かけたら購入して東北を応援したいと思います。三陸の魚はいまだに近所の食料品店であまり見かけません(秋鮭は見た)。石巻は特に大きな港にも小さな浜にも水産加工場がたくさんあったのが印象深いので、漁業や水産加工業が立ち直らないと宮城の復興はまだまだ先なのではないかという気がします。わが家のサバは千葉産のゴマサバ。味噌は仙台味噌。レシピは特別なものではなく実家にいた頃から母に教わって作っていたものです。


★サバの味噌煮

【材料】
だし 50ml
味噌 大さじ2
みりん 大さじ1
砂糖 大さじ1
日本酒 大さじ1
しょうが 1片

【作り方】
・サバを沸騰したお湯に入れてさっと火を通す。
・上記の比率の調味料で火を通したサバを味付ける。サバの量によって量は増減させる。

 私は甘辛いのが好きなので比率よりもちょっと砂糖を多くします。ショウガをすり下ろしていっぱい入れるのが好きです。ちなみに『赤い殺意』は渋谷ツタヤにもレンタルDVDがないですが(VHSのみ)、iTunesStoreでレンタルできます。ただしHD動画ではありません。


 

2012年9月7日金曜日

日本橋(1956年)

季節はずれのハマグリの潮汁。

 OLとOL、刑事と刑事、カウボーイとカウボーイ、軍人と軍人、北島マヤと姫川亜弓(『ガラスの仮面』)、ノエミとクリスタル(『ショーガール』日記へ)などなど、同じ職業のライバル同士が力の限り戦うことでお互いを認め合う友情映画はいっぱいあります。同じ人を愛する恋敵同士が、その愛し方を通して尊敬し合う映画もいっぱいあります。ずいぶん前に淡島千影追悼の気持ちでなにげなく見た市川崑監督『日本橋』も私にはそんな映画に思えました。好きなシーンがあったので泉鏡花の原作も読み、先日、日本橋でゆかりのある場所めぐりをして来ました。





 主人公のお孝(淡島千影)は日本橋の売れっ子芸者で、西河岸の延命地蔵尊の近くの露地で置屋を始めます。その露地には芸者の幽霊が出ると噂されていましたが、気の強いお孝は千世(若尾文子)をはじめ芸者をたくさん抱えて羽振りよくやっていました。お孝は美しく優しい清葉(山本富士子)をライバル視し、清葉が振った男を自分の恋人にするという当て付けを繰り返しています。北海道の海鮮問屋の五十嵐伝吾(柳永二郎)もその一人でしたがお孝に捨てられ、清葉への未練も断てず、すべてを捨てて東京で浮浪者になっていました。ある日、清葉は医学者の葛木晋三(品川隆二)の座敷に呼ばれ、清葉に姉の面影を重ねる葛木に思いを告げられますが、旦那のいる身の清葉は彼の思いに答えられません。一石橋で悲嘆にくれていた葛木は巡査に怪しまれ、尋問を受けているところをお孝に救われ……という物語です。





 市川崑監督が小村雪岱の絵のような画づくりをしているところが面白かったです。山本富士子が雪で真っ白に染まった橋の上を赤い傘を差して渡るシーンなどまさに小村雪岱の世界で、神保町シアターの客席から溜め息がもれていました。私が一番感動したのは、お孝が二階の窓から落してしまう扇を清葉が露地でキャッチするところです。『ショーガール』でノエミとクリスタルがドッグフードを食べた話をしながら高級シャンパンのクリスタルを飲むシーンに匹敵するくらいの、素晴らしい女の友情シーン。儚い身の上の芸者同士の友情をこんな美しく描く方法があるのかと、不覚にも涙してしまいました。この扇のシーンは原作にもあります。


 


日本橋西河岸延命地蔵尊。


 お孝の置屋・稲葉家のすぐそばにある西河岸地蔵尊は今もありますが、昭和五十一年(一九七六年)に建て替えられたものだそうです。本堂には、明治座で『日本橋』が上演されたときにお千世を演じた花柳章太郎が奉納した小村雪岱画「お千世の図額」があり、申し込めば見ることができるとのこと。映画の中でお孝がお百度詣りをしていたお百度石もちゃんとありました。


日本橋西河岸地蔵寺にあるお百度石。


 葛木とお孝が出会う一石橋もまだ残っています。泉鏡花が『日本橋』を出版したのは大正三年(一九一四年)で、この一石橋の親柱が建てられたのは大正十一年(一九二二年)。そしてその親柱のすぐ脇にある「迷子しらせ石標」は安政四年(一八五七年)に建てられたので、泉鏡花が『日本橋』を書く前からここにあることになります。


葛木とお孝が出会う一石橋。


 一石橋の袂ではかつて「一石餅」が売られていたようです。しかし店は現存せず、どんな餅かすらわかりません。そのほかにも原作の『日本橋』には、苺や林檎が美味しそうな小紅屋という果物屋、河岸の立ち食い鮨、打切飴、大蒸篭で配る引越し蕎麦、上野の西洋料理、桶饂飩、八頭の甘煮、豆煎、天麩羅蕎麦、千草煎餅、紅茶などが出てきて、大正三年(一九一四年)当時の和食と洋食が混在している東京の食文化がわかるのも楽しいです。原作はそのほか「女二人が天麩羅で、祖母さんと私が饂飩なんだよ。考へて見ると、其の時分から意気地の無い江戸兒さ」なんてセリフもありました。通ぶってコダワリの蕎麦を食べるのが江戸っ子ではなくて、饂飩を食べる意気地のない感じが江戸っ子とは面白いです。


一石橋の迷子知らせ石標。


 葛木やお孝らが歩く日本橋は既に、辰野金吾が設計した赤レンガの帝國製麻ビル、東京火災保険、そして日本銀行が建っているモダン都市です。当時の建物はほとんど残ってないですが、日本銀行はいまでもその壮麗な姿を見ることができます。一石橋を渡ってその日本銀行の前に差し掛かるあたりで、実はこの映画で最も衝撃的な食事シーン、五十嵐伝吾が羆の毛皮の筒袖から蛆をむしって食べる場面が繰り広げられます。伝吾によると蛆を食べると身体が暖まって、何日も食事にありつけなくても平気なんだそうです。すごい生命力。『血と骨』のビートたけしみたいです。しかしOL日記に蛆を出すわけにはいかないので、ここでは葛木が放生会として一石橋から流した雛祭のサザエとハマグリにちなみ、ハマグリの潮汁を作りました。


一石橋の方から眺めた日本銀行。


 貧しい家に生まれながら頭脳明晰で医学者の道が開けた葛木晋三。アザラシのような男でありながら実業家として成功した五十嵐伝吾。二人は日本の近代化によって道が開けたものの、生れた境遇の暗さを払いきれず、近代と近世の間で迷子になっているように見えます。そして置屋の女将として自立するはずが恋愛で挫折してしまうお孝と、「清葉さんは楽勤め」と腰掛けOLのように揶揄される芸者から一変してお孝の跡を継いで置屋の女将となる清葉も、同じではないでしょうか。赤レンガの西洋風のビル群と電車、花街や河岸や地蔵尊が混在する日本橋という町が、彼ら彼女らの姿に重なることは言うまでもありません。そして現代の自分とそうかけ離れてる世界ではないという気もするのでした。


 


 文庫に掲載されている佐藤春夫の解説には「この一篇を一貫する主題は愛情である」とありましたが、私は「餅屋は餅屋ぢゃ、職務は尊い」という巡査のセリフがこの本のキーになる言葉のような気がします。それは私が都会でサバイブ中のOLだからでしょうか。ハマグリの潮汁は五月頃に料理して撮ったものです。NHK「ためしてガッテン」でハマグリは加熱しすぎないよう気をつけると身がやわらかくふっくら仕上げられると言っていたので、ちょっと沸騰したところで火を止めて密閉性の高い蓋をして余熱でハマグリの口が開くまで温めてみました。だし、塩、酒、醤油のシンプルな味付けながら、たいへん美味しかったです。


 

2012年7月2日月曜日

ジェイン・オースティンの読書会(2007年)

わが家のブラウニーにはマリファナは入ってません。


 ノラ・エフロンが亡くなってしまいました。
 大人の女性になって『アニー・ホール』を改めて見たとき、あのマニッシュで素敵なファッションと裏腹に、アニーがあまりに空っぽなことにショックを受け、つくづく思ったのはノラ・エフロンって偉いなってことでした。『アニー・ホール』の約十年後、ウディ・アレンに物申すように「It had to be you」が流れるロマンティックコメディの脚本を書いて、アニーの百倍ナマイキなサリーを大の人気者にしたノラ・エフロンは、本当に賢くて面白くて立派! 『シルクウッド』『ジュリー&ジュリア』以外は、男性映画ファンがバカにするラブコメと女性映画ファンが煙たがるドタバタコメディばっかり作ったので、ノラ・エフロンは軽く見られがちのような気がしてならないけど、知的で辛辣で軽やかで洒落ていて尊敬していました。


 


 近頃は「ノーラ・エフロン」で統一されているみたいだけど、昔の小林信彦のエッセイなどでは「ノラ・エフロン女史」なんてよく書かれていたし、『ハートバーン』や『ママのミンクは、もういらない』などの著書では「ノラ・エフロン」と書かれているし、ずっと「ノラ・エフロン」って言ってたから、もう、そう書いちゃう。過去の日記で、『ジュリー&ジュリア』のブフ・ア・ラ・ブルギニヨンを、『奥さまは魔女』のココナッツ・シュリンプを、『ミックスナッツ』のフルーツケーキを作ったように、彼女の脚本・監督・プロデュース作品はたぶんすべて見てるんじゃないかな。著書も手に入るものはひととおり読んでいるはず。


 


 そして、ちょうどこの『ジェイン・オースティンの読書会』を見ながら、ノラ・エフロンの次の監督・脚本作はイギリスのTVドラマ「ジェイン・オースティンに恋して」の映画化なんだよね、と楽しみにしていたので本当に悲しいです。現代女性が『高慢と偏見』の世界に迷い込むファンタジーコメディ(?)をノラ・エフロンがどんな風に撮るのか、見たかったな。ジェイン・オースティンの長編処女作にして死後に出版された『ノーサンガー・アビー』の中には下記のような文章があり、なんだかノラ・エフロン作品みたいで笑ってしまいました。約二百年前の女性が書いたとは思えません。




ふたりはポンプ・ルームを歩きながら楽しいおしゃべりをしたが、もちろん話題は、若い女性をあっという間に仲良しにしてしまう話題、すなわちドレス、舞踏会、恋のたわむれ、そして奇人変人の噂などだった。
(中野康司訳『ノーサンガー・アビー』より)





 そしてノラ・エフロンも、『ユー・ガット・メール』でエルンスト・ルビッチ監督『桃色の店/街角』をリメイクしたときに、ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』も下敷きにしていたので、ジェイン・オースティンのファンだったはずです。ジェイン・オースティンとノラ・エフロンのカップリング、そしてもちろん他にももっといろいろ。見てみたかったな。


 


 もちろん私はジェイン・オースティンファンなので、カレン・ジョイ・ファウラー著『ジェイン・オースティンの読書会』が発売されたときはすぐ買いましたが、未読のままになっていました。それが五月末の韓国旅行の前になにげなく読み始めたら止まらなくなって、飛行機の中でもこの本を読んでいました。「十九世紀のイギリスの女性が書いた本を読む現代のアメリカの女たちの話を韓国で読む日本の女」が私。脚本を書いて映画化したロビン・スウィコードという監督は、脚本家のニコラス・カザンの奥さんで、名前からわかる通り、ニコラス・カザンはエリア・カザンの息子。二人の娘が『レボリューショナリー・ロード』でオッパイを出していたゾーイ・カザンということになります。


 


 『ジェイン・オースティンの読書会』は、年齢も職業も性格も異なる六人がジェイン・オースティンの読書会を行う、という映画です。人生経験豊富なバーナデット(キャシー・ベイカー)が『高慢と偏見』、独身のドッグブリーダーのジョスリン(マリア・ベロ)が『エマ』、フランス語教師のプルーディー(エミリー・ブラント)が『説得』、夫と離婚したばかりのシルヴィア(エイミー・ブレネマン)が『マンスフィールド・パーク』、シルヴィアの娘でレズビアンのアレグラ(マギー・グレイス)が『分別と多感』、そして唯一の男性でSFおたくのグレッグ(ヒュー・ダンシー)が『ノーサンガー・アビー』と、それぞれのホストとなり、読書会のための場所と軽食を提供します。読書会が進むうちにそれぞれに訪れる人生の特別な局面が、どことなく微妙にジェイン・オースティン作品と重なるように描かれるのが見所です。


 


 ずるい…! 原作では「まつ毛が長い」くらいのアピールだったSFおたくのグレッグを、ヒュー・ダンシーが演じるなんてずるい! 『25年目のキス』日記で罵った『お買い物中毒な私!』では、就職した会社の若くてヤリ手のハンサムな上司がヒュー・ダンシーで、自分を高く評価してくれる上に恋仲になって、しかも実は彼はイギリスの大金持ちだった…、なんて話がうますぎた! それが今度はジェイン・オースティンの読書会にヒュー・ダンシーが来るなんて。ライオンの群れにお肉を放り込むようです。お肉はどうなるか? その展開にジェイン・オースティン要素(特に『エマ』)が絡ませてあるところが楽しいです。そのほかの五人の恋愛模様も同様にジェイン・オースティン要素を巧妙に絡ませて描かれるのだけど、映画はさすがに六人のエピソードを丁寧に描くには時間が足りないのが残念! 


 


 原作はホスト役が読書会でふるまう食べ物も細かく書かれています。サン・ティーやピーチマルガリータなどのドリンクから、ワインが出てくる場合はプティ・シラーやグラフィナ・マルベック、ボニー・ドゥーン・ヴィンヤードの白ワインなど、ホストがどんなものを選んだのかもちゃんと教えてくれます。軽食もクレム・ド・ミント入りのスクエアクッキー、干しクランベリーとクルミの砂糖がけをあしらったグリーンサラダ、ホムスやアーティーチョークを使ったものなど数種類のディップ、ルートビア・フロスト、ペッパークラッカー、自家製ストロベリーシャーベット、シュガークッキーなど、ちょっと気になるものばかり。それぞれに人柄が表れている「おもてなし」の中身がチマチマ描かれているのもこの小説の楽しいところなのだけど、映画は時間が限られているから食べ物に原作ほどの存在感はありません。ふと、食べ物を使って人間を描くことが上手だったノラ・エフロンならどうしたかな? と想像してしまったのは正直なところです。


  


 


 プルーディーの母親(リン・レッドグレイブ)がテレビを見ながら食べているのがブラウニーなのですが、原作には出てきません。真面目な高校教師のプルーディーとは正反対で、母親は元ヒッピーのだらしない女。プルーディーが家に帰ると、部屋はメチャクチャ、台所は汚れっぱなし、床の上に直にブラウニーの型が置かれてカーペットが焦げているのに、母親は平然とテレビを見て笑っています。母親の意識がちょっとふわっとしている様子から察するに、ブラウニーにはマリファナが入っている? 





 『ノッティングヒルの恋人』『人喰いアメーバの恐怖2』『25年目のキス』日記でしつこくブラウニーを作ってきましたが、アメリカの映画やドラマにおける「ブラウニーといえばマリファナ」という表現の多さには本当にびっくりします。ジェイン・オースティンと深い関わりがあるわけでもない菓子ですが、せっかくブラウニーが出てきたので『25年目のキス』日記で失敗したレシピの分量を半分に減らしてリベンジしてみました。もちろんわが家のブラウニーにはマリファナは入ってません!


ポール・A・ヤングさんのブラウニーのリベンジレシピ

【材料】
・無塩バター 50g
・ゴールデンカスターシュガー 125g
・ゴールデンシロップ 37.5g 

・70%ダークチョコレート 137.5g 
・放し飼いの鶏の中くらいの卵 2個 
・中力粉 35g 
・ココナッツフレーク 25g 
・ドライチェリー 50g

 【作り方】 

・オーブンを170℃に余熱する 
・大きなソースパンで、バター、砂糖、シロップが滑らかになるまで溶かす 
・火を止めてチョコレートを加え、よく混ぜる 
・卵を溶いてチョコレートの混合物と混ぜ合わせる 
・小麦粉、ココナッツを加え、十分に混ぜる 
・クッキングペーパーを敷いた15cm×20cm×2.5cmのトレイに注ぎ、平らにならす 
・チェリーをブラウニーの表面に散らし、30分間焼く 
・オーブンから出して冷まし、一晩冷蔵庫で冷やす ・型から出して、ペーパーを取り除き、濡れたナイフを使ってブラウニーの端を切り落とし、好きなサイズの四角形に切る 
・食べるときは室温もしくは温める ・密閉容器に入れて冷蔵庫の中で4日間保存できる 

参考:ポール・A・ヤング著『adventures with chocolate』






 『25年目のキス』日記のレシピの分量を半分に減らし、焼く温度を170℃に上げてリベンジ。ゆるゆるな感じはなくなったけど、やはり濃厚なチョコレートの塊を食べている感じ。これはこれで羊羹みたいでコーヒーや紅茶のお供にいいかも。自分の好みとしては一晩おいただけだとちょっとまだなじんでない、卵の生臭さみたいなもの?が気になったので、二晩くらい冷蔵庫においてちょっと締まった感じになったくらいが好きでした。しかしもうちょっとチョコレートの塊とケーキみたいなパフパフの中間ぐらいな感じにならないかな。ブラウニー研究はまだまだ続きます。


 


 


 


  


 


 

2012年5月4日金曜日

25年目のキス(1999年)

“ロンドンで一番”と言われたレシピで作成。しかし…。


 昨年からある女の子のblogをずっと読んでいて、今の就職活動のあまりの厳しさに涙しつつ、陰ながら応援していました。しかし無事に、今春から働いてらっしゃるみたい。自分も就職先が決まるのが遅かったので、他人事とは思えませんでした。本当におめでとうございます。感性豊かで真摯な女の子に、働く機会がちゃんと与えられる世の中であってほしいなあ。慣れるまでは大変だと思うけど、長くやっていれば必ずやりたいことや自分らしいことが少しずつできるようになるので頑張って! と、人を励ましている場合ではなく自分も頑張らねば。そんな新入社員がいっぱい誕生した春、ということでOLが主人公の映画、ドリュー・バリモア主演・製作総指揮、ラージャ・ゴスネル監督『25年目のキス』を見ました。今は「OL」じゃなくて「サラ女」と言うって本当?


 


 シカゴ・サン・タイムズ社で働くジョジー(ドリュー・バリモア)は文才はあるのに、真面目が過ぎて記事を書かせてもらえない二十五才のOLです。ある日突然、ワンマン社長(ゲイリー・マーシャル)の思いつきで、学生に扮して高校潜入ルポを書くことを命じられます。この企画が失敗すると自分のクビも危ない上司のガス(ジョン・C・ライリー)はジョジーに学園の王子様のガイ(ジェレミー・ジョーダン)や、美人のカースティン(ジェシカ・アルバ)と仲良くなるよう指示を出すのですが、ジョジーはついついさえない優等生のアルディス(リーリー・ソビエスキー)やコールソン先生(マイケル・ヴァルタン)と意気投合。人気者たちには相手にされません。そんな姉の苦労を見かね、弟のロブ(デヴィッド・アークエット)までもが学園に潜入してジョジーを人気者にすることに成功するのですが……というコメディ映画です。


 


 OL生活が長いのでOL映画を見るのは大好き。でもOL映画を撮るなら「ショートカットしない」ことを守ってほしい! 「美人」「肉体関係」などの理由で、面接とか試験とか業績とか然るべき段階をすっ飛ばして出世・転職・異動・昇格すると、OL仲間には確実に嫌われます。私が所属していた会社でも、そのようなケースがあったのですが、男性と同様に面接や試験を戦い抜いた女子社員たちから猛反対の嵐が巻き起こり、見送りとなりました。私はそのとき忙しかったので、すべてが終った後に顛末を教えてもらったのだけど、知っていたら一緒に反発しただろうなあ。ショートカットはする人もさせる人も「Kick your ass!」です。だからOL映画が、一番のお客様であるOL様の共感を得たいなら、「ショートカットしない」は鉄則。とことんショートカットでのしあがるOL映画は、『ショーガール』ぐらいえげつなくやってくれるならもちろん見たい!





 ほとんどのOL映画は「身の丈に合ってない状況に放り込まれる」発端に始まって、「つじつまが合うよう努力することで人間としても女としてもひと皮むける」という結末を迎えます。例えば、人気の映画『プラダを着た悪魔』では服の趣味が悪くてファッションをバカにしているアンドレアが「人気ファッション誌の編集長のアシスタントに採用される」という身の丈に合っていない状況に放り込まれます。そして、実はそこには「ファッションおたくな女の子はバカばっかりで使えなかったけど名門大学を卒業して大学新聞の編集長もやってたあんたなら使えるかと思って採用した」という理由があるので、OLも納得の大抜擢です。


 


 しかし同じアライン・ブロンシュ・マッケンナが脚本を書いた『恋とニュースのつくり方』では、なぜローカル局をクビになったベッキー(レイチェル・マクアダムス)が、視聴率最低番組とはいえネットワーク局のディレクターに大抜擢されたのかがわかりにくいので、どうも映画に乗り切れませんでした。つぶすことが密かに前提になっている不人気番組のディレクターだから、という理由だとはわかるのですが、ハッキリ描かれないまま話が進むので、尻がムズムズします。





 『お買い物中毒な私!』も、ファッション雑誌の編集部に採用されたくて送った文章が経済雑誌で採用されるなんて、「女の感性を生かす」という戯言=「ショートカット」としか思えませんでした。でも英語がわかる人は彼女の文才に納得できるのかもしれませんね。





 『ブリジット・ジョーンズの日記』という人気作もOLが主人公でしたが、あれは『高慢と偏見』を下敷きにしているので、OL映画というより恋愛の映画だと思っています。『ワーキング・ガール』はメラニー・グリフィスが素晴らしく可愛いのですが、ショートカットの嵐で、もう今のOLには受け入れられないはずです。そのようにOL映画はいっぱいあるけど、OLの共感をガッチリ得られて、時代を超えて長持ちする作品は実はとっても少ないのではないでしょうか。


  


 この『25年目のキス』では主人公が「二十五歳なのに高校生のふりをして潜入ルポを書く」という身の丈に合わない状況に放り込まれます。しかも主人公は、大人なのに今でもモテなかった高校時代の心の傷を引きずり、心は女子高生のまま時が止まっているのに女子高生のふりをしなくてはならない、という複雑な存在です。そんな矛盾に彼女を放り込むのは「すべて思いつきで好き勝手に決裁するワンマン社長」でした。そういう社長は現実世界にもいるので(私も会ったことある)、この大抜擢はおおいに納得できます。そしてジョジーを演じるドリュー・バリモアが、うら若き乙女とは思えないくらい(当時、二十四歳)、ましてや女優とは思えないくらい、大胆にモテない女の子に化けているので、映画の世界にすんなり入っていけました。


 


 この映画は、ムチャな嘘をつき通す楽しいコメディであるだけではありません。ジョジーは大人として学園に乗り込んで、上から目線で子どもを啓蒙するのではなく、子どもの世界を余所者の公平な目で見ることで、未熟な若者を励まし、自分自身も子どもっぽい価値観から二十五歳にしてやっと卒業する、という爽やかな映画でした。ドリュー・バリモアの実は古風な美貌と、優しい人たちを騙そうとして騙しきれないジョジーのキャラクターは、往年のハリウッド映画のヒロインたち、ビリー・ワイルダー監督『少佐と少女』のジンジャー・ロジャースや、フランク・キャプラ監督『オペラ・ハット』のジーン・アーサーや、プレストン・スタージェス監督『レディ・イヴ』のバーバラ・スタンウィックのような風格さえ感じられました。


 


 エンドクレジットの甘酸っぱい演出も(必見!)、この映画を締めくくるにふさわしい素晴らしさです。つくづく、日本にはプロムがなくて本当によかったと思います。ジョジーの気持ちがわかる女子は日本にもいっぱいいるのでは。高校時代、男子とほとんど口をきかなかった私も、そのひとりです。


 


 ジョジーの高校生活は学食とファストフードで彩られます。特に、ロブが学園で人気者になるために実行した、学食の食べ物を使ったある「秘策」には笑いました。あのシーン、大好き! パイやシェイク、デコレーションケーキ、アイスクリームなどチープな甘いものがいっぱい出てくる中、ジョジーとコールソン先生の距離を近づける大事な食べ物がブラウニーでした。学園のアイドルと仲良くなるために人気のクラブに行ったジョジーは、マリファナ入りのブラウニーを食べてしまい、ステージ上で痴態をさらします(このドリュー・バリモアも可愛い)。そんなジョジーを見ても、彼女にますます好感を持つコールソン先生! 怒られたり泥酔したり失敗したり、時には公衆の面前でブザマな姿をさらさなければならないOLにとって、度量の大きいコールソン先生は最高にいい男! 





 ジョジーが食べたブラウニーはねっとりしたチョコレートクリームが塗られていてデビルズフードケーキみたいだったけど、せっかくの機会なので、前々から気になっていたロンドンのチョコレートショップのポール.A.ヤングさんのレシピでブラウニーを作ってみました。日本国内で翻訳本が発売されていないので、以下に概要を掲載します。


●ポール・A・ヤングさんのブラウニー

【材料】
・無塩バター 100g
・ゴールデンカスターシュガー 250g
・ゴールデンシロップ 75g
・70%ダークチョコレート 275g
・放し飼いの鶏の中くらいの卵 4個
・中力粉 70g
・ココナッツフレーク 50g
・ドライチェリー 100g


【作り方】
・オーブンを160℃に余熱する
・大きなソースパンで、バター、砂糖、シロップが滑らかになるまで溶かす
・火を止めてチョコレートを加え、よく混ぜる
・卵を溶いてチョコレートの混合物と混ぜ合わせる
・小麦粉、ココナッツを加え、十分に混ぜる
・クッキングペーパーを敷いた15cm×20cm×2.5cmのトレイに注ぎ、平らにならす
・チェリーをブラウニーの表面に散らし、20分間焼く
・オーブンから出して冷まし、一晩冷蔵庫で冷やす
・型から出して、ペーパーを取り除き、濡れたナイフを使ってブラウニーの端を切り落とし、好きなサイズの四角形に切る
・食べるときは室温もしくは温める
・密閉容器に入れて冷蔵庫の中で4日間保存できる


ポール・A・ヤング著『adventures with chocolate』より






 料理研究家のデヴィッド・ルボヴィッツさんが、ポール・A・ヤングさんのブラウニーを「ロンドンで一番美味しい」と言っていたので気になっていたら、レシピ集が出版されていたので、その中の「黒サクランボとココナッツのブラウニー」を作りました(ドライクランベリーで代用)。しかし焼く温度が低いところに不安が…。これはねっとりタイプのガトーショコラのレシピに似ている? 過去、ねっとりタイプのガトーショコラを何度か作ったことがあるのですが、実は一度もうまく焼けたことがありません。不安を感じつつ、とりあえずレシピ通り一六〇度で二〇分焼いて取り出したら、生地がタプタプと型の中で波打って、どう考えても生焼け。それで再度、一七〇度に予熱したオーブンで一〇分焼いたら、表面が一センチくらい膨らんで裂け目ができていました。





 やっぱりこれくらい火を通さないとダメだろうと納得して粗熱を取り、一晩冷蔵庫で寝かしたのですが、翌日切ってみたら、まだネトネト過ぎて包丁でスムーズに切れません。ポールさんのオーブンではいいかもしれないけど、わが家のオーブンは、このレシピではダメみたい。次は生地を半分の量に減らして、一七〇度で二〇分~三〇分焼いて、中の方だけしっとりとなるようにしてみたいです。ガトーショコラ系は何が正解なのかがわからなくて難しい。でもそれって自分の中にイメージがないってこと? パンみたいな軽いパフパフのブラウニーじゃなくて、表面はカリッとして中がちょっとしっとりネットリどっしりしたブラウニーを作りたいのは確かなのだけど、果して、美味しいブラウニーとは!?


 


 

2012年4月6日金曜日

ヤング≒アダルト(2011年)

メイビスがラストシーンで食べるのはドーナツ。


 仕事の関係でTVドラマ「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ」を見なければならない機会があり、参考のために、同じくディアブロ・コディが脚本を書いた映画『ジュノ/JUNO』も続けて見たら、すっかり彼女のファンになってしまいました!

 人生においてマイナスとしか思えない事柄も(多重人格症や未成年の妊娠)、意外とマイナスじゃない、もしかしてかえってプラスかも? と思えるような、彼女が描く「幸と不幸の境目がなくなる瞬間」が大好き。というわけで、ディアブロ・コディの新作が来たら映画館に見に行こうと待ちかまえていたところ、ジェイソン・ライトマン監督『ヤング≒アダルト』が封切られたので、さっそく日比谷のシャンテに行ってきました。

 楽しみに思うのと同時に、主人公が「もう若くない田舎出身の負け犬女」と聞いて、「もう若くない富山出身の負け犬女」としては「どれどれ(お手並み拝見)」という気分で見たのも本当のところです。


 


 若者向け小説のゴーストライターでミネアポリス在住、三十七歳のメイビス(シャーリーズ・セロン)が映画の主人公です。かつて人気だったシリーズ小説も打ち切りが決定し、浮かない気持ちで最終回を執筆する日々を送っていた彼女のもとに、元カレのバディ(パトリック・ウィルソン)から赤ちゃん誕生のメールが届きます。最終回の恋の結末の構想を練りつつ、パッとしないデートをした翌朝、運命の恋人を取り戻さなくてはならない気分になったメイビスは、故郷のマーキュリーへ! さっそくバディと再会し、彼にまだ自分への思いが残っていることを(勝手に)確信したメイビスは、元いじめられっ子のマット(パット・オズワルド)の制止をふりきって、バディの妻のバンド演奏会、赤ちゃんの命名式へ誘われるままに突進するのですが……というコメディです。




 都会に暮す業界人なんだけど、ニューヨークではなくミネアポリス住民。
 人気シリーズを手がける作家なんだけど、名前は表には出ないゴーストライター。
 オシャレでゴージャスな美女なんだけど、酔っ払って化粧をしたままベッドになだれ込むだらしない女。

 そんなメイビスに呆れるより共感できるところが多すぎて、大笑いしながら見ました。よほどきちんとしていて性格がよく上等な人間でない限り、彼女くらいの欺瞞と傲慢は誰にでも思い当たるところがあるのでは? 

 ダイエットコーラの2リットルペットボトルを常飲しつつも、アイスクリームやクッキー、ブラウニーなど甘いものを食べまくる、というのも私が日々やっていることと同じ! 女性の「甘いもの&ダイエット生活」を白日の下に晒してみると、メイビスに劣らないクレイジーな話はゴロゴロ転がっているはずです。甘いものひとつとっても、ディアブロ・コディの目の付けどころは面白く、彼女が描く「もう若くない田舎出身の負け犬女」は期待を裏切らない楽しさでした。





 欺瞞と傲慢にまみれたメイビスは、映画が終る頃には改心して何かを得る? 成長して故郷を去る? 予想とまったく違って、最後に待っていたのは、ちょっと震えるくらい感動的な結末でした。

 あのラストシーンのシャーリーズ・セロンが観客に与える勇気と力強さを何かにたとえるなら、今村昌平監督『豚と軍艦』のラストシーンでひとり横須賀から出て行く吉村実子のガッツに匹敵すると言いたいです。

 そして最後にシャーリーズ・セロンは今までと変わりなくココナッツフレークがふりかけられたドーナツを口にくわえたまま車を発進させます。何故しつこく最後までメイビスは甘いものを食べるのかというと、彼女は相変わらずだらしない女で、自分の欲望に正直な女で、だからこそ他人の欲望も認める女で、他人に同情するなんて失礼なことは絶対にしない女だからです。




 シャーリーズ・セロンのガッツに敬意を表し、人生初のドーナツを作ってみることにしました。

 しかし私が食べたことのある手作りドーナツというと、子どもの頃に母が作ってくれた、“余ったホットケーキミックスを丸めて揚げ、砂糖を入れた紙袋に入れて振る”という「穴のあいてないドーナツ」だけです。

 ドーナツが出てくる映画はたくさんあるのに、レシピはもとより、ドーナツはいつごろから食べられているのか、刑事がドーナツを食べる映画が多いのは起源となった作品があるのかなど、わからないことだらけ。

 そこでアメリカの料理について調べるときは必ず目を通すファニー・ファーマー著『The Boston Cooking School』をパラパラ見てみると、一八九六年版には三種類のドーナツのレシピが、一九一八年版には五種類のレシピが掲載されていました。少なくとも一九〇〇年頃には既に、ドーナツは定番のおやつだったことが想像できます。




 一九一八年版の五種類のドーナツは、Wheatless Doughnuts(ライ麦のドーナツ)、Raised Doughnuts(イーストを使ったドーナツ)、Doughnuts1(小麦粉と牛乳のドーナツ)、Doughnuts2(サワークリームとタルタルクリーム=酒石酸水素カリウムを使ったドーナツ)、Doughnuts3(ケーキのように黄身と白身を分けて泡立てたドーナツ)。

 初心者は最もシンプルなDoughnuts1に挑戦してみることにしました。オリジナルの量では多過ぎるので、その半量で試しましたが、初挑戦には初挑戦なりの試練が。オリジナルの量で作っていたら、とんでもないことになっていただろうとわかるのは後になってからでした。掲載されていたレシピは下記の通りです。

★『The Boston Cooking School』のドーナツ

【材料】
・砂糖 134g
・バター 30g
・卵 3個
・牛乳 240cc
・ベーキングパウダー 4ts
・シナモン 1/4ts
・挽いたナツメグ 1/4ts
・塩 1と1/2ts
・小麦粉 427g


【作り方】
バターを室温でやわらかくして1/2の砂糖を加える。ふんわりするまで卵をよくかき混ぜる。残りの砂糖を加え、先ほどのバターの混合物と混ぜる。3と1/2カップの小麦粉、ベーキングパウダー、塩、スパイスを混ぜてふるいにかける。生地を平らにのばせるくらい十分に小麦粉を加える。混ぜたものの1/3を、打ち粉をした板に打ちつけ、少しこね、軽くたたき、1/4インチ(約6mm)の厚さに引き伸ばす。ドーナツカッターで型を取り、たっぷりの油で揚げる。串で刺して引き上げ、キッチンペーパーで油を吸い取る。ドーナツカッターで型を取った余りを、残りの生地の1/2に加えて平らにのばし、形を作り、前と同じように揚げる。それを繰り返す。ドーナツは早く油の上の方にあがってこなければならず、片側が茶色になったら、同じ温度を保ったまま、茶色の側を上にひっくり返されなければならない。もし冷たすぎるなら、ドーナツは油を吸収するだろう。もし熱すぎたら、ドーナツは十分に火が通る前に茶色になるだろう。油で試してやり方を習得しよう。

ファニー・ファーマー著『The Boston Cooking School』の一九一八年版より






 オリジナルの半量の材料を混ぜ合わせてみると、ケーキの生地くらいのゆるさだったので、まずはレシピ通り小麦粉を足しました。

 しかし、足しても足しても生地はドロドロのままで、いつのまにかけっこうな量の小麦粉を足していることに気付きます(量は不明! これをオリジナルの量で作っていたらと考えるとゾッとするほどの量)。

 このまま調子に乗って足していると、カチカチのドーナツを何日間にも渡って食べ続けることになると思い、意を決してゆるい生地のままドーナツカッターでくり抜き、慎重に油に投入してみました。揚がったのは、ミスタードーナツのオールドファッションのように固くてどっしりした、パンのようなドーナツ。どこまでゆるい生地に踏み止まれるかに、やわらかいドーナツへの鍵が隠されているのでしょうか? 

 そしてクリスピー・クリームのオリジナル・グレーズドのような、ふわふわドーナツを作るにはたぶんイーストを使わなくてはならないのでしょう。次にドーナツ映画を見たら、黄身と白身を分けて泡立てる生地にも挑戦してみたいです。





 メイビスの故郷である田舎町「マーキュリー」は架空の町だそうですが、彼女が住んでいるミネアポリスといえばプリンスの町、『パープル・レイン』の町です。

 伝説のライブハウス「ファースト・アベニュー」と巨大なショッピングモールがあり、大きな道路をバイクで走れば湖に到着します。

 すぐ隣には、スコット・フィッツジェラルドが生まれたセントポールがあり、『冬の夢』の舞台となったホワイトベアー湖も近いです。


  


 『パープル・レイン』やフィッツジェラルドの小説では、ちょっとさえないアメリカ中西部出身の男の子が、南部からやってきた情熱的な女の子と運命の恋に落ちますが、『ヤング≒アダルト』では、中西部にくすぶっているのは野心満々の中年女で、元カレがフィッツジェラルドの主人公のようにロマンティックにいつまでも自分のことを好きでいてくれると思ったら大間違いであることがよくわかります。

 しかし現代のミネアポリスの女は、ゼルダのように精神が崩壊することはなく、デイジーのように上流階級の夫の庇護のもとでしか生きられないこともなく、ジュディーのように醜く不幸になるのでもなく、もっとしぶといのでした。やっぱりディアブロ・コディの作品は新鮮でガッツがあって、描かれている事柄やイメージ以上のものを喚起するので面白いです。

これからも彼女について行きます!