2012年7月2日月曜日

ジェイン・オースティンの読書会(2007年)

わが家のブラウニーにはマリファナは入ってません。


 ノラ・エフロンが亡くなってしまいました。
 大人の女性になって『アニー・ホール』を改めて見たとき、あのマニッシュで素敵なファッションと裏腹に、アニーがあまりに空っぽなことにショックを受け、つくづく思ったのはノラ・エフロンって偉いなってことでした。『アニー・ホール』の約十年後、ウディ・アレンに物申すように「It had to be you」が流れるロマンティックコメディの脚本を書いて、アニーの百倍ナマイキなサリーを大の人気者にしたノラ・エフロンは、本当に賢くて面白くて立派! 『シルクウッド』『ジュリー&ジュリア』以外は、男性映画ファンがバカにするラブコメと女性映画ファンが煙たがるドタバタコメディばっかり作ったので、ノラ・エフロンは軽く見られがちのような気がしてならないけど、知的で辛辣で軽やかで洒落ていて尊敬していました。


 


 近頃は「ノーラ・エフロン」で統一されているみたいだけど、昔の小林信彦のエッセイなどでは「ノラ・エフロン女史」なんてよく書かれていたし、『ハートバーン』や『ママのミンクは、もういらない』などの著書では「ノラ・エフロン」と書かれているし、ずっと「ノラ・エフロン」って言ってたから、もう、そう書いちゃう。過去の日記で、『ジュリー&ジュリア』のブフ・ア・ラ・ブルギニヨンを、『奥さまは魔女』のココナッツ・シュリンプを、『ミックスナッツ』のフルーツケーキを作ったように、彼女の脚本・監督・プロデュース作品はたぶんすべて見てるんじゃないかな。著書も手に入るものはひととおり読んでいるはず。


 


 そして、ちょうどこの『ジェイン・オースティンの読書会』を見ながら、ノラ・エフロンの次の監督・脚本作はイギリスのTVドラマ「ジェイン・オースティンに恋して」の映画化なんだよね、と楽しみにしていたので本当に悲しいです。現代女性が『高慢と偏見』の世界に迷い込むファンタジーコメディ(?)をノラ・エフロンがどんな風に撮るのか、見たかったな。ジェイン・オースティンの長編処女作にして死後に出版された『ノーサンガー・アビー』の中には下記のような文章があり、なんだかノラ・エフロン作品みたいで笑ってしまいました。約二百年前の女性が書いたとは思えません。




ふたりはポンプ・ルームを歩きながら楽しいおしゃべりをしたが、もちろん話題は、若い女性をあっという間に仲良しにしてしまう話題、すなわちドレス、舞踏会、恋のたわむれ、そして奇人変人の噂などだった。
(中野康司訳『ノーサンガー・アビー』より)





 そしてノラ・エフロンも、『ユー・ガット・メール』でエルンスト・ルビッチ監督『桃色の店/街角』をリメイクしたときに、ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』も下敷きにしていたので、ジェイン・オースティンのファンだったはずです。ジェイン・オースティンとノラ・エフロンのカップリング、そしてもちろん他にももっといろいろ。見てみたかったな。


 


 もちろん私はジェイン・オースティンファンなので、カレン・ジョイ・ファウラー著『ジェイン・オースティンの読書会』が発売されたときはすぐ買いましたが、未読のままになっていました。それが五月末の韓国旅行の前になにげなく読み始めたら止まらなくなって、飛行機の中でもこの本を読んでいました。「十九世紀のイギリスの女性が書いた本を読む現代のアメリカの女たちの話を韓国で読む日本の女」が私。脚本を書いて映画化したロビン・スウィコードという監督は、脚本家のニコラス・カザンの奥さんで、名前からわかる通り、ニコラス・カザンはエリア・カザンの息子。二人の娘が『レボリューショナリー・ロード』でオッパイを出していたゾーイ・カザンということになります。


 


 『ジェイン・オースティンの読書会』は、年齢も職業も性格も異なる六人がジェイン・オースティンの読書会を行う、という映画です。人生経験豊富なバーナデット(キャシー・ベイカー)が『高慢と偏見』、独身のドッグブリーダーのジョスリン(マリア・ベロ)が『エマ』、フランス語教師のプルーディー(エミリー・ブラント)が『説得』、夫と離婚したばかりのシルヴィア(エイミー・ブレネマン)が『マンスフィールド・パーク』、シルヴィアの娘でレズビアンのアレグラ(マギー・グレイス)が『分別と多感』、そして唯一の男性でSFおたくのグレッグ(ヒュー・ダンシー)が『ノーサンガー・アビー』と、それぞれのホストとなり、読書会のための場所と軽食を提供します。読書会が進むうちにそれぞれに訪れる人生の特別な局面が、どことなく微妙にジェイン・オースティン作品と重なるように描かれるのが見所です。


 


 ずるい…! 原作では「まつ毛が長い」くらいのアピールだったSFおたくのグレッグを、ヒュー・ダンシーが演じるなんてずるい! 『25年目のキス』日記で罵った『お買い物中毒な私!』では、就職した会社の若くてヤリ手のハンサムな上司がヒュー・ダンシーで、自分を高く評価してくれる上に恋仲になって、しかも実は彼はイギリスの大金持ちだった…、なんて話がうますぎた! それが今度はジェイン・オースティンの読書会にヒュー・ダンシーが来るなんて。ライオンの群れにお肉を放り込むようです。お肉はどうなるか? その展開にジェイン・オースティン要素(特に『エマ』)が絡ませてあるところが楽しいです。そのほかの五人の恋愛模様も同様にジェイン・オースティン要素を巧妙に絡ませて描かれるのだけど、映画はさすがに六人のエピソードを丁寧に描くには時間が足りないのが残念! 


 


 原作はホスト役が読書会でふるまう食べ物も細かく書かれています。サン・ティーやピーチマルガリータなどのドリンクから、ワインが出てくる場合はプティ・シラーやグラフィナ・マルベック、ボニー・ドゥーン・ヴィンヤードの白ワインなど、ホストがどんなものを選んだのかもちゃんと教えてくれます。軽食もクレム・ド・ミント入りのスクエアクッキー、干しクランベリーとクルミの砂糖がけをあしらったグリーンサラダ、ホムスやアーティーチョークを使ったものなど数種類のディップ、ルートビア・フロスト、ペッパークラッカー、自家製ストロベリーシャーベット、シュガークッキーなど、ちょっと気になるものばかり。それぞれに人柄が表れている「おもてなし」の中身がチマチマ描かれているのもこの小説の楽しいところなのだけど、映画は時間が限られているから食べ物に原作ほどの存在感はありません。ふと、食べ物を使って人間を描くことが上手だったノラ・エフロンならどうしたかな? と想像してしまったのは正直なところです。


  


 


 プルーディーの母親(リン・レッドグレイブ)がテレビを見ながら食べているのがブラウニーなのですが、原作には出てきません。真面目な高校教師のプルーディーとは正反対で、母親は元ヒッピーのだらしない女。プルーディーが家に帰ると、部屋はメチャクチャ、台所は汚れっぱなし、床の上に直にブラウニーの型が置かれてカーペットが焦げているのに、母親は平然とテレビを見て笑っています。母親の意識がちょっとふわっとしている様子から察するに、ブラウニーにはマリファナが入っている? 





 『ノッティングヒルの恋人』『人喰いアメーバの恐怖2』『25年目のキス』日記でしつこくブラウニーを作ってきましたが、アメリカの映画やドラマにおける「ブラウニーといえばマリファナ」という表現の多さには本当にびっくりします。ジェイン・オースティンと深い関わりがあるわけでもない菓子ですが、せっかくブラウニーが出てきたので『25年目のキス』日記で失敗したレシピの分量を半分に減らしてリベンジしてみました。もちろんわが家のブラウニーにはマリファナは入ってません!


ポール・A・ヤングさんのブラウニーのリベンジレシピ

【材料】
・無塩バター 50g
・ゴールデンカスターシュガー 125g
・ゴールデンシロップ 37.5g 

・70%ダークチョコレート 137.5g 
・放し飼いの鶏の中くらいの卵 2個 
・中力粉 35g 
・ココナッツフレーク 25g 
・ドライチェリー 50g

 【作り方】 

・オーブンを170℃に余熱する 
・大きなソースパンで、バター、砂糖、シロップが滑らかになるまで溶かす 
・火を止めてチョコレートを加え、よく混ぜる 
・卵を溶いてチョコレートの混合物と混ぜ合わせる 
・小麦粉、ココナッツを加え、十分に混ぜる 
・クッキングペーパーを敷いた15cm×20cm×2.5cmのトレイに注ぎ、平らにならす 
・チェリーをブラウニーの表面に散らし、30分間焼く 
・オーブンから出して冷まし、一晩冷蔵庫で冷やす ・型から出して、ペーパーを取り除き、濡れたナイフを使ってブラウニーの端を切り落とし、好きなサイズの四角形に切る 
・食べるときは室温もしくは温める ・密閉容器に入れて冷蔵庫の中で4日間保存できる 

参考:ポール・A・ヤング著『adventures with chocolate』






 『25年目のキス』日記のレシピの分量を半分に減らし、焼く温度を170℃に上げてリベンジ。ゆるゆるな感じはなくなったけど、やはり濃厚なチョコレートの塊を食べている感じ。これはこれで羊羹みたいでコーヒーや紅茶のお供にいいかも。自分の好みとしては一晩おいただけだとちょっとまだなじんでない、卵の生臭さみたいなもの?が気になったので、二晩くらい冷蔵庫においてちょっと締まった感じになったくらいが好きでした。しかしもうちょっとチョコレートの塊とケーキみたいなパフパフの中間ぐらいな感じにならないかな。ブラウニー研究はまだまだ続きます。