2013年1月15日火曜日

ルビー・スパークス(2012年)

1874年のオハイオ州のレシピで作ったミートローフ。

 『宇宙人ポール』の半券を使って『ルビー・スパークス』を千円で見ました。

 監督は『リトル・ミス・サンシャイン』を撮った、ジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリス夫婦です。実は『リトル・ミス・サンシャイン』はちょっと苦手な映画でしたが、話題の新作恋愛映画はやっぱり見ておきたい! そして主演の女の子が自ら脚本を書いているのが気になる! ので映画館に行ってきました。二〇十三年“映画館初め”は渋谷のシネクイント、この『ルビー・スパークス』です。


 


 十九歳で小説家デビューして天才と言われたものの、新作が書けず、新しい恋人もできないまま、スランプに陥っているカルヴィン(ポール・ダノ)が主人公です。ある日、彼は夢の中で、理想の女の子、ルビー・スパークス(ゾーイ・カザン)と出会います。彼女のことを小説に書いてみたところ、現実の世界にルビーが現れ、自分の恋人になってくれて……というラブコメです。


 『(500)日のサマー』のズーイー・デシャネルと同じように、『ルビー・スパークス』主演のゾーイ・カザンも超美人というわけではないのに可愛い! ルビーのカラフルなファッション、インテリアもデザインもおしゃれなカルヴィンの家、二人の恋愛生活を彩る音楽も素敵です。そして、この映画も『(500)日のサマー』も、それ以上でもそれ以下でもないところが、いいところでもあり、物足りないところでもあるような気がします。


 


 そんな可愛いゾーイ・カザンは、『エデンの東』『ブルックリン横丁』『紳士協定』などで有名なエリア・カザンの孫で、顔がそっくりでびっくりします。


 


 しかも父のニコラス・カザンは『マチルダ』『アンドリューNDR114』などの脚本家、母のロビン・スウィコードは『ジェイン・オースティンの読書会』の監督かつ『若草物語(一九九四年版)』『SAYURI』などの脚本家という、業界人一家育ち。かといってゾーイ・カザンは単なる二世・三世タレントではなく、イェール大学を卒業した才媛で、サム・メンデス監督『レボリューショナリー・ロード』ではレオナルド・ディカプリオの不倫相手という端役でヌードも披露しています。


 


 ルビーはカルヴィンが作った女の子キャラなので、もちろん料理も上手です。登場して間もなく、大きなボールを抱えて卵を溶いていたので、笑いました。

 台所まわりの美術もいちいち可愛かったです。ルビーのエプロンは、彼女のテーマカラーというべき赤色。ちょっと紫がかったような濃く鮮やかな深い赤で、とても印象に残ります。また、ルビーが現れた翌朝、彼女がシリアルを食べているボウルの色も紫がかった赤、「ルビー色」で可愛いです。


 


 カルヴィンの兄のハリー(クリス・メッシーナ)が遊びに来たときも、ルビーはミートローフをふるまいます。映画ではすぐに食後シーンに切り替わってしまうので、ルビーがどんなミートローフを作ったのかは不明ですが、テーブルの上に、ル・クルーゼのチェリーレッドのココット・オーバルみたいな赤い鍋がドン!と置いてありました。そこで私も「ルビーの出身地であるオハイオ州の家庭に伝わっているレシピ」というイメージで古い料理書を調べ、ル・クルーゼの鍋を使ってミートローフを焼いてみました。


 


 見てみたのはコネチカット州とオハイオ州のメソジスト監督教会の料理書『METHODIST COOK BOOK』(一九〇七年刊行)と、オハイオ州ポーツマスの軍人共済組合の料理書『Portsmouth monumental cook book』(一八七四年)です。前者には四つの、後者には二つのミートローフのレシピが掲載されていました。



 


 「VEAL LOAF」と肉の種類を仔牛と明記している場合は、約三ポンドの仔牛肉と二分の一ポンドの塩豚と、卵、砕いたクラッカー、こしょう、塩がだいたい共通の材料。レシピを紹介している女性によって、そこにセージを入れたり、バター、クリーム、牛乳、タイムを入れたりという感じです。現在よく見かけるようにゆで卵を入れたり野菜を刻んで入れたりはしない、シンプルな料理です。

 わが家ではいちばんシンプルな下記のレシピで、量を三分の一に減らして作ってみました。

★オハイオ州ポーツマスのヒコック夫人のミートローフ

生の赤身の仔牛肉を3ポンド、1/2ポンドの塩豚(近所になかったのでベーコンで代用)を、加熱しないまま、よく挽く。6個のボストンクラッカーの砕いたもの、よく溶いた3個の卵、ティースプーン山盛りのコショウ、ティースプーン1杯のタイムを混ぜて、皿にしっかりと詰める。3時間焼く。冷ましたものをスライスしてお茶と一緒にいただくと美味しい。
『Portsmouth monumental cook book』より



 わが家のル・クルーゼはココット・ロンドです。そこに牛肉を約五〇〇gに減らしたレシピで作った素材を、かまぼこ状にして置きました。どうなるのかわからなかったので一応クッキングシートを敷きました。
 フタをしないで二〇〇℃でまずは三十分。オーブンから取り出すと、上はいい焼き色で側面がほんのりピンク色。肉の脂とアクが底に溜まっていたので、ここでクッキングシートごと捨てました。フライパンで焼き色を付けてアクと脂を出してからオーブンで焼いてもよかったかもしれません。ついでにさっと茹でた野菜を周囲に散らして、二〇〇℃で十分、追加で焼きました。

 これでしばらく粗熱をとって、スライスして、ソース(ケチャップ+ウスターソース+赤ワインなど好みで)をかけて食べます。わが家では最近流行中の「なんでもパクチーと一緒に食べる」をこのミートローフでも試したら、ものすごく美味しかったです!!


ミートローフをパクチーと一緒に食べるのが流行中。

2013年1月5日土曜日

ミッドナイト・イン・パリ(2011年)

夏にはまったカルヴァドス・ジンジャー。


 あけましておめでとうございます。
 真冬に夏の話で恐縮ですが、昨年の夏はカルヴァドス・ジンジャーにはまってました。

 マルセル・カルネ監督『港のマリー』、タル・ベーラ監督『倫敦から来た男』、アキ・カウリスマキ監督『ル・アーヴルの靴みがき』、そして、ウディ・アレン監督『ミッドナイト・イン・パリ』を見たら、どの映画にもカルヴァドスが出てきて、飲んでみたくてたまらくなってしまったのがきっかけです。

 ちなみに、この冬は何にはまっているかと言うと、「日本酒はどんな酒であれ、燗して飲むのが一番美味しいよ!」とふれまわるのに凝ってます。


 


 ウディ・アレンの新作を楽しみにして、映画館へ行くのは久しぶりでした。
 学生時代の私は、ケラのラジオ番組を愛聴しており、彼が紹介するものは何でも見たり聞いたり読んだりしていたのですが、テクノポップ、ニューウェーブ、マルクス・ブラザーズ、バスター・キートン、モンティ・パイソン、Mr.Boo、小林信彦…、そしてウディ・アレンもそのひとつでした。

 しかし最近は「忙しいなかウディ・アレンの新作を見に行くぞ!」という気合いを失っていました。

 それがこの『ミッドナイト・イン・パリ』で久々に重い腰を上げた理由は、なんといっても主演がオーウェン・ウィルソンだからです! 『ライフ・アクアティック』を見て以来、オーウェン・ウィルソンがこの世に元気に生きている、と思うだけで、泣けてきます。

 そんなオーウェン・ウィルソンが、ウディ・アレン作品に出る。
 それは見に行かねばなりません。


 


 主人公は、ハリウッドで脚本家として活躍中のギル(オーウェン・ウィルソン)です。

 ギルとそのフィアンセのイネズ(レイチェル・マクアダムス)は、イネズの父(カート・フラー)の出張に便乗してパリ旅行中。イネズ一家は保守的な金持ちで、パリに移住して小説を書きたいと思っているギルと、何かと意見が合いません。

 ウンザリしたギルが真夜中のパリを散歩していると、自動車が一台やってきて、彼を誘います。自動車に乗り込んだギルが連れて行かれた先は、ヘミングウェイやフィッツジェラルド夫妻、コール・ポーター、ピカソが生きている一九二〇年代のパリで……というコメディです。


 


 ヘミングウェイ、スコット・フィッツジェラルド、コール・ポーター、ガートルード・スタイン、アリス・B・トクラス、ダリ、ピカソ、ゴーギャン、ルイス・ブニュエル、マン・レイなどなど有名人がいっぱい出て来て楽しいのですが、見てみれば『カイロの紫のバラ』のような、いつものウディ・アレンの“あちらとこちら”の話でした。

 映画が、橋に始まり、橋に終わるのも暗示的です。

 オーウェン・ウィルソンがちょっと老けてくたびれていて、同じウディ・アレン監督作の『ギター弾きの恋』のショーン・ペンや『マッチポイント』のジョナサン・リース=マイヤーズより魅力に欠けるように感じられましたが、最後の橋のシーンは何度見ても好き。
 あのシーンは、観客みんながギルと同じ気持ちになって、胸がいっぱいになるんじゃないかと思います。


 


 小説を書きたいギルと金持ちのワガママ娘のイネズというカップルが主人公であること、ウディ・アレン作品を貫くテーマを考えても、スコット・フィッツジェラルドと深く絡む話だったら二重三重に面白すぎる! とわくわく期待しましたが、ウディ・アレンはヘミングウェイの方が好きみたいです。

 OLとしては、イネズの旅行鞄セットがゴヤールで揃ってるところに目が釘付けでした。『シャレード』のオードリー・ヘップバーンの旅行鞄や、大地真央と松平健の新婚旅行の旅行鞄がルイ・ヴィトンで揃っていたのは見ましたが、ゴヤールで揃えているのを見るのは初めてです。


 


 現代のパリに生きるギルは、イネズ一家やイネズの元カレの大学教授と一緒に、リッチな建物の屋上で開催される品評会に参加して、チャラチャラと赤ワインを飲みます。しかし一九二〇年代のパリで、ギルが自らショットグラスに注ぎ、そのままガブッと飲んでいたのは、カルヴァドスでした。

 しかしどの酒屋に行っても、映画の中のカルヴァドスのように、黒蜜のようなカラメルのような、人を誘うような濃い色をしたものは見つけられません。そこでまずはなじみのバアへ行って、ギルやノルマンディの漁師やル・アーヴルの刑事みたいに、常温でそのまま飲んでみました。


 


 気持ちだけは、ショットグラスをカウンターにガン!と叩きつけて、「カルヴァ!」と威勢よくおかわりを求めたかったのですが、一杯を飲みきるのが大変なくらいカルヴァドスは強い酒でした。

 酒にとても詳しくて、いつも美味しいシングルモルトや飲み方を教えてくれる女の子の店員さんに相談してみたら、「カルヴァドスをジンジャーエールで割るカルヴァドス・ジンジャーが美味しいですよ」とのこと。確かに林檎と生姜の香りがよくて感激してしまい、今年の夏は家でもよく飲みました。ジンジャーエールは安いものでなく、生姜の味がしっかりしてる手作り風のものを使った方が美味しいです。